祥吉さんの許可を得て親父に知らせにいく
説明したら安堵の表情を浮かべた
「こっちです」
祥吉さんは俺らを見つけると手招きをした
呼ばれて行ってみると綺麗に整理された部屋に通された
「直樹から言われてこんなこともあろうかと準備した部屋です」
祥吉さんはせっせと準備を始めた
……なんだか手慣れてる
「俺ね、これでも看護師の資格持ってるの。でも、子供とも触れ合いたくて保育士の資格も取ったんだ」
だから、手慣れてるんだ
「樹里ちゃん、熱中症だよ。無理してたみたいだね」
親父の顔を見て申し訳なさそうにした樹里
「樹里ちゃん、今はゆっくり休まなきゃダメだよ」
樹里は祥吉さんの言葉に素直に頷いていた
しばらくすると樹里は眠った
「にしても、何で親父が此処にいんの?」
今は仕事のはずなのに…
「もうすぐ夏休みも終わるし七絵が“樹里ちゃんの様子を見てこい”ってうるさいからな」
母さんは樹里のこと本当の娘のように可愛がってるしな
「ご紹介が遅れました。大翔の父で樹里ちゃんの主治医の相馬です」
親父の自己紹介を聞くと納得したらしい祥吉さん
他愛のない話をしてから樹里を連れ帰宅することになった
「樹里ちゃんの様子はどうだい?」
俺は今までの樹里の様子を簡潔に話した
親父は俺の言うことをメモしていく
こういうところは先生の顔をするんだよな
昔は仕事人間の親父が嫌いだった
でも、樹里に出会ってから新しい親父の一面を見れる気がする
「樹里は、いつになったら声が出るようになる?」
俺は1番気になっていることを聞く
「それは俺にも分からないよ。樹里ちゃんのストレスになってるものを取り除かないと。」
時間の流れに任せるしかないのか…。
「樹里は今、落ち着いてる。だけど、たまに寂しそうな顔をするんだ」
その顔が脳裏に焼きついて離れない
「長いこと声が出てないからな。焦りがあるんだと思う」
……それもそうか。
「樹里ちゃんを支えるのがお前の役目だろ?」
「そうだな。未だに迷うことがあるけど樹里といる時間は充実してる」
その言葉を聞き親父は安堵の表情をみせた
今までが心配掛けてばかりだったからな。
樹里のおかげで俺は変われて充実した日々を送れてるんだ
樹里の様子を見ながら親父と今までの時間を埋めるように会話をした
ぎこちないけど、俺も少しは成長出来てるのかな?
君の支えはとても大きい
だけど、前に進む為には
あたしが強くならないと
いけない気がする
***************
夏休みも終わり2学期になった
まだまだ休みボケが続いている
初めてと言っていいほど充実した夏休み
誕生日もあたしの大好きな人達に祝ってもらえて涙するほど嬉しかった
どれもこれも大翔のおかげだ
「樹里、ちょっといいか?」
今は音楽の授業中
声が出ないあたしは教室で自習
そんなとき、授業がない担任があたしの前に現れた
真剣な担任に首を傾げる
「そんな不安そうな顔しなくて大丈夫。ちょっと樹里にお願い事」
……お願い事?
「体育祭と文化祭のカメラマン、樹里にお願いしたいんだ」
《あたしにですか?》
「校長には許可取ったし、写真撮るのが好きなら引き受けてくれるよな?」
“あたしで良いのかな?”って思ったけど、快く引き受けることにした
「良かった。樹里のやりたいようにすると良い。樹里がカメラ好きなのは分かってるから」
この人は佐々木先生みたいに優しい人だ
「あと、佐々木先生と高千穂と椎田も来てくれることになったから」
《奈那達、来るの?》
「あぁ、本人達は“内緒に…”って言ってたらしいけど、樹里のこと考えて報告しておいた方が良いってなってな」
奈那達、来るんだ
佐々木先生に会えるのも嬉しいけど、奈那に会いたかったから嬉しい
「みんな、樹里に会えるの楽しみみたいだから無理せずゆっくり頑張れよ」
先生の言葉に頷いたあたし
「大翔とも仲良くやってるみたいで安心したよ。樹里に出会うまで手のかかるやつでな」
先生は大翔のことを教えてくれた
大翔のこと、知れて嬉しい
先生は自分の授業がなかったらしくチャイムが鳴るまであたしの相手をしてくれた
____放課後
あっという間に下校の時間
冬華は用事で帰ったし大翔は小牧先生に呼び出された
「樹里の写真、いつ見ても落ち着く」
と言ってくれたのは実夢
“一人で帰すのは心配だから”という大翔の要望で実夢が相手をしてくれている
大翔や冬華、実夢のおかげでこのクラスでのいじめはない
大翔や冬華が用事の時は実夢とあたしが撮った写真を見る
そのたびに実夢は写真を褒めてくれるんだ
「この中ではこの写真が好き」
と指差したのは奏哉さんと花菜ちゃんの横顔の笑顔の写真
「樹里だから撮れる1枚だと思うな」
恥ずかしいけど《ありがとう》と書いたボードを見せた
「樹里、帰ろう。上條、樹里の相手ありがとう」
大翔が帰って来たので帰る準備を始める
「樹里の写真見るの楽しみだからお安いご用です。樹里、またね」
実夢は笑顔で帰って行った
最近の実夢、笑顔が増えた気がする
「最近の上條、良く笑うようになったな」
実夢の姿が見えなくなってから大翔が呟いた
《あたしも同じこと思ってた》
と書いたボードを見せると大翔は微笑んだ
「上條が笑うのは紛れもなく樹里のおかげだな」
……そうかなぁ
あたしの表情をみて分かったのか…。
「樹里が優しいから上條も心を許したんだよ。樹里の良さを周りが知らないだけ」
と話してくれた
少しでも実夢の役に立ててるかなぁ。
「さっ、帰ろう。母さんたち待ってるし」
今日は大翔の家族と夜ご飯を食べるの
お父さんと樹音の二人での家族day
たまには時間を作ってあげなきゃ
おばあちゃんとおじいちゃんも旅行に出かけた
だから、相馬家にお世話になるのです
……といっても七瀬さんは仕事の都合上、来れないらしい。
大翔曰く“行きたかったのにー‼”とぼやいてたんだとか。
「七瀬が来れない分、母さんが張り切って料理してるさ」
最近、気づいたこと
大翔は毒を吐くときには“姉貴”ではなく“七瀬”と呼ぶ
なんだかんだ言って信頼している証拠なんだろうなぁ
「母さんたちが樹里に優しくするのは俺の彼女として認められた証拠だから」
そういうと大翔はリングのしてある指同士を絡めた
誕生日に大翔がくれたリングはあたしのお気に入り
この、リングを見るたびに元気になる
「樹里。俺には樹里だけだから。これから先も樹里のこと大切にする」
サラッといいのける大翔
聞いてるこっちが恥ずかしい
だけど、その反面嬉しいと思う自分がいる
「体育祭と文化祭が終わったら出掛けような」
そういえば代休だった
なんて考えながら家路に着いた
「ただいま」
「樹里ちゃん、おかえりー‼」
七絵さんは一目散に駆け寄ってきてあたしを抱きしめてくれた
「母さんはなんだかんだいってやっぱり樹里だな」
“挨拶したのは俺なのに”と大翔はなんだか不服そう
「だって、樹里ちゃん可愛いんだもん」
母親のいないあたしのことを分かってくれて七絵さんはあたしを娘のように可愛がってくれる
「久志が樹里ちゃんが来るの待ってたから手洗いうがいして着替えてから行きなさいね」
相馬先生、忙しいのに来てくれたんだね
「樹里、行ってこいよ」
大翔に背中を押され着替えてから相馬先生の元に向かった
といっても大翔が寝てる部屋なんだけど。
あたしが入って来やすいようにと扉は開けられていた
「樹里ちゃん、来たね。座って」
相馬先生は病院とは違うラフな格好であたしを出迎えてくれた
「気分はどうかな?」
《今のところ、発作も起きないので体調も良いです》
周りの気遣いがあってか発作も起きていない