4限目は音楽の授業。
音楽は大好きだけど大嫌い
聴くことは出来ても歌えないから
あたしは冬華と待ち合わせしていた桜の木の下に行くことにした
カメラと携帯、お弁当は持ってきたし此処に居ても大丈夫。
カメラは冬華がお願いしてくれて持ってきても良いと言われたから。
桜の木、満開だな。
後、何日見れるんだろ?
あたしは写真を撮ることに没頭していた
しばらく撮り続けてるとお腹も空いてきたからお弁当を食べる
どの位、時間が経ったのかも分からない
携帯で時間を見る気にもならなかった
お弁当を食べ終え座ったまま桜の木を見上げる
「樹里」
自分の名前を呼ばれピクリと反応する
振り向かなくても誰か分かる
こんな優しい声は君しかいない
そして、後ろからギュッと抱きしめられた
「探したじゃんか…」
そう呟いた大翔は息が上がっていた
「冬華も小牧も心配してるぞ」
それは分かってるけど…
「でも、見つかって良かった」
《ごめんなさい》
抱きしめられた状態でボードを取り出しそう書いた
《音楽の授業、嫌いなの》
「だからか…。見つかったし教室に帰ろう」
あたしは首を横に振った
帰りたくない。
あの教室にあたしの居場所なんてないんだから…
しょんぼりして居ると大翔に頭を撫でられていた
抱きしめられた状態は変わらない
「大丈夫。大丈夫だからな」
大翔から大丈夫と言われて安心出来た
だけど、やっぱり教室には戻りたくない
あの子の睨んで来た顔の表情が怖いんだ
「樹里…?」
大翔は心配そうに覗き込む
「泣いてんの?」
“泣いてないよ”って言えたらどんなに幸せなんだろう
話せないあたしにはどうすることも出来ない
「教室に戻りたくない理由があるんだろ?でも、俺は無理に樹里から聞かないよ」
大翔はあたしの隣に座り直した
「樹里が話してくれるまで待ってる」
どうして、こんなに優しいんだろ。
「次の授業、サボるか。泣いてたら出たくないだろ?」
あたしは正直に頷くしかなかった
「樹里、今度の休みの日出掛けるか?」
《外に出たくない。本当は学校にも行きたくないのに》
「それはちゃんと分かってる。でも、引っ越してきたばかりで揃えるものもあるだろ?」
確かにそうだな。
「ゆっくりで良い。1人で出掛けろ、なんて言わない」
1人でなんて怖くて外に出られない
「俺は樹里の支えになりたい。サポートがしたい。でも、俺や冬華と居るのが嫌なら俺は潔く身を引くよ」
大翔の目は真剣だった
《どうしてそんなに優しいの?こんなあたしの相手してくれるの?》
「直樹さんに聞いたから。」
お父さん、教えたんだ
「俺、本気で樹里のサポートをしたい」
此処まで真剣に言ってくれた人は大翔が初めてだ
大翔は優しくあたしを抱きしめた
《ありがとう。長時間は無理だけど外に出ることも必要だよね》
「俺が居るから心配すんな。弱くなって良い。ゆっくり進んで行こうな」
そう言ってもらえた事が嬉しい
彼氏じゃないけど、君だから弱い自分を見せられるんだ
俺に出来ることは
少ないかもしれない
どんなに小さなことでも
キミの役に立ちたい
***************
俺に抱きしめられた状態の樹里は眠っていた
ちゃんと眠れてるんだろうか
「あー!!居たー!!」
俺らを見つけた冬華は近づいてきた
「冬華、静かにしろ。やっと眠ったばっかりだから」
起こすのも気の毒だからな
「樹里は居なくなるし探しに行った大翔まで居なくなるし。探したんだからね!!」
「ごめんって。樹里に“教室に帰ろう”って言ったんだけど、帰らなかったんだ」
冬華は渋い顔をした
「樹里って馴染むのに時間が掛かるからね。それにこんな状態なら尚更」
話せないから樹里なりに葛藤があるんだよな。
気持ちよさそうに眠る樹里の頭を撫でる
「大翔、樹里には優しいんだね」
「俺の気持ち、知ってるくせに。」
冬華に呼び出されて気付いた
“樹里が好きだ”と言うことに。
出会って間もない人を好きになるなんて思いもしなかったけど…
樹里は違う。
「あたしも大翔になら樹里のこと任せられる。直樹さんからも聞いたんだろうし。」
「樹里の役に立ちたいと思ったから聞いた」
多分、相手が樹里じゃなかったらどうでも良かった
女と接するの嫌いだし
冬華と樹里は特別だな。
「あたしも樹里の傍に居る。だけど、あたしがサポート出来ない分はよろしくね」
俺は小さく頷いた
「今度の休みにでも樹里を連れ出そうと思うんだ。冬華はどうする?」
一応、冬華にも聞かないと。
「もちろん、あたしも行く。荷物持ちお願いね」
……だろうと思った。
「少しずつ出歩かせないと樹里は完璧な引きこもりになっちゃう」
「好きなこと、させないとだな。」
と、言ったものの…
樹里って何が好きなんだろう
「買い物行かせてあげたらどうかな?引っ越してきたばかりだから」
それもそうだな。
「だけど、多分いつ発作が起きてもおかしくないはずだからあたし達が傍に居ないとね」
冬華はちゃんと樹里の性格を分かってる
「樹里は団体行動が苦手だからいつも1人なんだ。だけど、1人で居るのも嫌いなの」
もっと樹里のこと知らなきゃいけないな。
「でも、樹里がこんなに男子に心を許してるなんて初めてかも」
冬華は驚きつつも嬉しそうだった
「とりあえず、先生も心配してたから知らせて来るね。ついでに荷物も取ってくる」
冬華は樹里の頭を撫でると担任に知らせに向かった
「気持ちよさそうに寝るヤツだな」
と言った瞬間、パッと樹里が目を開けた
「起きたか?」
まだ眠たそうな樹里に一応、声を掛ける
「寝たかったら寝て良いんだぞ。授業も終わったし」
すると、樹里は何を思ったのか自分から抱き付いてきた
……全く可愛いヤツだ
他の女なら振り払ってたけど…
樹里なら許す。
今はさせたいようにさせよう
荷物を持って戻って来た冬華はびっくりしていた
「樹里も大翔だから甘えるんだよね。他なら考えられない」
こんな俺を頼ってくれてると思うと嬉しい
特に相手が好きな女なら尚更
「樹里、背負うから荷物宜しく」
冬華に荷物を持たせ学校を出た
「先生、かなり焦ってたよ。でも、見つかってホッとしてた」
小牧も心配性だからな。
「樹里、気持ちよさそうだね。落ち着いてる」
背負ってる俺には分からないんだけど…
「樹里を連れ出すこと、直樹さんは了承したの?」
「直樹さんから言われたんだ。“連れ出して欲しい”って。」
「直樹さんも心配してるんだよ。樹里は心配掛けないように振る舞ってるけど…」
確かに強がってるところあるな
冬華と他愛のない話をしながら帰宅し樹里をベッドに寝かせた
1度くらいは起きるかなと思ってたけど、樹里は起きることはなかった
その間、どうしたら樹里の役に立てるか考え続けたのだった