【更新中】キミの声、聞かせて

「似合ってんじゃん」


ポンポンと頭を撫でられる


大翔は怒らない


寧ろ、優しく接してくれる


冬華と同じで…


「お姉ちゃーん?朝ご飯出来てるよ」


樹音が呼びに来てくれた


あたしは素早く朝ご飯を食べて支度をしカメラを準備する


せっかくなんだ


樹音とお父さんを撮ってあげよう


「樹里、おはよう。」


朝早くから畑仕事をしているおじいちゃんとおばあちゃんが挨拶をしてくれた


あたしもお辞儀して返す


そしてペンを走らせた


《樹音、入学式だから写真撮るよ。おばあちゃん達も一緒に撮ろ?》


「この格好でかい?」


「着飾るのも大事ですけどそのままで写るのも良いことです。」


話せないあたしの代わりに大翔が話してくれた
「撮ってあげます。だから、一緒に並んで下さい。」


「じゃあ、お言葉に甘えるよ」


玄関の前で写真を撮ることになった


家族5人、樹音とお父さんを境に並ぶ


「撮りまーす」


----カシャッ


「もう撮ったのかい?」


おばあちゃんはビックリしている


後はおばあちゃん達と樹音、お父さんと樹音、あたしと樹音という風に大翔は何枚か写真を撮ってくれた


「大翔君、ありがとう」


「いえ。俺に出来ることをやっただけですから」


大翔は優しいね


「樹里ー?学校行くよ」


冬華が迎えに来てくれた


「あれ、大翔。なんで居るの?」


「樹音の写真、撮ってたんだ」


大翔も写真撮るの好きなんだって見てるだけで分かった
「ちょっと、大翔。こっち来なさい」


大翔は冬華に手を引かれ見えないところへ行ってしまった


「おねーちゃん。似合ってるー?」


おじいちゃんが買ってくれた真新しいピンクのランドセルを背負った樹音が聞いてくる


《似合ってるよ。可愛いね》


と書いたボードを見せると樹音はニコッと笑った


「おねーちゃんの制服姿も可愛い」


“ありがとう”と手話で答える


「樹音、樹里は何のジェスチャーしてるんだ?」


「大翔。ジェスチャーじゃないよ。手話。」


さっきまで消えてた2人が戻ってきた


「お姉ちゃんは挨拶とかは手話でお話してるんだよ」


大翔に一生懸命話してる樹音が可愛くて写真を撮る


「さっ、学校行こう」


冬華の一言で学校に出発した
大翔も冬華もあたしのペースに合わせて歩いてくれる


2人とも優しいなぁ…


これで話せたらもっと楽しいのに…


「樹里、学校着いたよ」


冬華の声で我に返る


「「冬華ー!!大翔ー!!おはよー!!」」


何人かのクラスメートが2人に挨拶をする


やっぱり人気なんだな、2人とも


真っ先に2人に挨拶した子と目が合い思いっきり睨まれた


あぁ…あたしは此処に居たらダメなんだな


前の学校でもそうだったけど結局、此処にもあたしの居場所はない


とりあえず、自分の席に座り突っ伏した


「樹里、授業始まるよ。」


1限目は国語、2限目は数学、3限目は英語


此処までは何事もなく順調に受けた


4限目はサボろう


受ける気にならなかった
4限目は音楽の授業。


音楽は大好きだけど大嫌い


聴くことは出来ても歌えないから


あたしは冬華と待ち合わせしていた桜の木の下に行くことにした


カメラと携帯、お弁当は持ってきたし此処に居ても大丈夫。


カメラは冬華がお願いしてくれて持ってきても良いと言われたから。


桜の木、満開だな。


後、何日見れるんだろ?


あたしは写真を撮ることに没頭していた


しばらく撮り続けてるとお腹も空いてきたからお弁当を食べる


どの位、時間が経ったのかも分からない


携帯で時間を見る気にもならなかった


お弁当を食べ終え座ったまま桜の木を見上げる


「樹里」


自分の名前を呼ばれピクリと反応する


振り向かなくても誰か分かる


こんな優しい声は君しかいない
そして、後ろからギュッと抱きしめられた


「探したじゃんか…」


そう呟いた大翔は息が上がっていた


「冬華も小牧も心配してるぞ」


それは分かってるけど…


「でも、見つかって良かった」


《ごめんなさい》


抱きしめられた状態でボードを取り出しそう書いた


《音楽の授業、嫌いなの》


「だからか…。見つかったし教室に帰ろう」


あたしは首を横に振った


帰りたくない。


あの教室にあたしの居場所なんてないんだから…


しょんぼりして居ると大翔に頭を撫でられていた


抱きしめられた状態は変わらない


「大丈夫。大丈夫だからな」


大翔から大丈夫と言われて安心出来た


だけど、やっぱり教室には戻りたくない


あの子の睨んで来た顔の表情が怖いんだ
「樹里…?」


大翔は心配そうに覗き込む


「泣いてんの?」


“泣いてないよ”って言えたらどんなに幸せなんだろう


話せないあたしにはどうすることも出来ない


「教室に戻りたくない理由があるんだろ?でも、俺は無理に樹里から聞かないよ」


大翔はあたしの隣に座り直した


「樹里が話してくれるまで待ってる」


どうして、こんなに優しいんだろ。


「次の授業、サボるか。泣いてたら出たくないだろ?」


あたしは正直に頷くしかなかった


「樹里、今度の休みの日出掛けるか?」


《外に出たくない。本当は学校にも行きたくないのに》


「それはちゃんと分かってる。でも、引っ越してきたばかりで揃えるものもあるだろ?」


確かにそうだな。
「ゆっくりで良い。1人で出掛けろ、なんて言わない」


1人でなんて怖くて外に出られない


「俺は樹里の支えになりたい。サポートがしたい。でも、俺や冬華と居るのが嫌なら俺は潔く身を引くよ」


大翔の目は真剣だった


《どうしてそんなに優しいの?こんなあたしの相手してくれるの?》


「直樹さんに聞いたから。」


お父さん、教えたんだ


「俺、本気で樹里のサポートをしたい」


此処まで真剣に言ってくれた人は大翔が初めてだ


大翔は優しくあたしを抱きしめた


《ありがとう。長時間は無理だけど外に出ることも必要だよね》


「俺が居るから心配すんな。弱くなって良い。ゆっくり進んで行こうな」


そう言ってもらえた事が嬉しい


彼氏じゃないけど、君だから弱い自分を見せられるんだ
俺に出来ることは

少ないかもしれない

どんなに小さなことでも

キミの役に立ちたい

***************


俺に抱きしめられた状態の樹里は眠っていた


ちゃんと眠れてるんだろうか


「あー!!居たー!!」


俺らを見つけた冬華は近づいてきた


「冬華、静かにしろ。やっと眠ったばっかりだから」


起こすのも気の毒だからな


「樹里は居なくなるし探しに行った大翔まで居なくなるし。探したんだからね!!」


「ごめんって。樹里に“教室に帰ろう”って言ったんだけど、帰らなかったんだ」


冬華は渋い顔をした


「樹里って馴染むのに時間が掛かるからね。それにこんな状態なら尚更」


話せないから樹里なりに葛藤があるんだよな。