「気が抜けたみたいだな」
大翔はあたしが抱き付いても怒らなかった
だって、まさか奈那に会えるなんて思ってなくて気が張ってた
心の準備が出来てなかったから。
「会えて良かったじゃん。いつかは会わなきゃいけなかったから良かったんじゃない?」
確かにいつかは会わなきゃいけなかった
でも、1人じゃ奈那に会えなかった
大翔が居てくれてから奈那に会えた
「良く頑張ったじゃん。せっかく会えたんだし今は楽しむんだ。」
大翔が居るんだ
あたしは1人じゃない
大翔から離れられない
大翔の温もりを感じたかった
「今日の樹里は甘えん坊だな。可愛いけどね」
大翔はあたしの存在を確かめるように抱きしめてくれた
「よいしょっと」
大翔は軽々とあたしを持ち上げソファーに座った
《大翔、好き》
話せない分、文字に書く
「俺も好きだよ?樹里以外考えられないから。」
そう言ってくれるのは大翔しか居ないね。
あたしは抱きつく
「可愛いヤツ」
こんな風にするのも大翔だけ。
「奈那がお風呂から上がったら樹里も入って来いよ」
大翔から離れたくないな
「俺は居なくならないから。なっ?」
大翔はあたしの頭を撫でてくれた
「2人とも仲良いんだね」
奈那が戻って来た
やっぱり奈那は綺麗だな
「樹里、入ってきな。ゆっくり浸かって疲れを取ると良いよ」
大翔の言葉を聞き奈那と交代でお風呂に入った
久しぶりに会った君は
可愛くなってるし
良く笑うように
なっていた
見ないうちに君も
成長してるんだね
***************
樹里がお風呂に向かってるのを見てあたしは椅子に座る
そんなあたしを見て樹里の彼氏の大翔くんもあたしの前に座った
「1番最初に入らせてもらってごめんね」
「良いんだ。俺、奈那と話したかったから。」
だから、樹里をお風呂に入らせたんだ
「あたしも貴方と話したかった」
樹里のこと、聞きたかったんだ。
久しぶりに会ったあたしの親友の樹里はとても可愛くなっていた
あたしが知らない間に彼氏も作っちゃってるし。
でも、樹里を見たら大翔くんのこと“信頼してるんだな”と思った
“男嫌い”というか“人嫌い”な樹里に彼氏が居るなんて信じられなかった
でも、大翔くんにだけは気を許してる
それだけ彼は樹里の中で大きな存在なんだね。
「奈那。どうして樹里に会いに来た?」
真剣な大翔くんの目
あたしは正直に話すことにした
「どうしても今、樹里に会いたかったの」
「それには理由があるんだろ?」
「樹里の誕生日、8月10日でね。毎年お祝いしてたから。」
一緒に出掛けたりお菓子を作ってあげたり…
「本人からではないけど知り合いから聞いたから知ってる」
「それに今、会っておかないともう会えないと思ったの」
樹里に会えないなんて考えられない
だったら自分から樹里を探し出す。
後悔はしたくなかったんだ。
「今、樹里に会わなきゃ後悔しそうで…。だから、そう思ったら身体が勝手に動いたの」
「直樹さんが怒った理由はそれだったのか。」
樹里のお父さんに心配掛けちゃったもんな。
「誰にも言わずに此処に来ちゃったからね。」
お父さんのお怒りの顔が目に浮かぶ
「担任の先生に樹里の居場所を聞いてはるばるやってきたの」
学校の場所しか聞いてなくてどうしようかと思ってたら大翔くんに会ったんだ
「樹里に会えたのも大翔のおかげだよ。ありがとう」
もう会えないって思ってたから。
「樹里も奈那に会いたがってたみたいだから良いきっかけになったよ」
そう言ってもらえたら嬉しい
「奈那は樹里のこと、支えたいんだよな?」
あたしは力強く頷いた
「もちろん。じゃないと樹里に会いになんて来てないよ」
樹里が大好きで大切だから。
あたしに出来ることで役に立ちたい
「それなら良いんだ」
「樹里は可愛いもんね。学校でもモテるでしょ?」
自分では気付いてないけど、樹里は可愛い
久しぶりに会ったらもっと可愛くなってた
「モテてるみたいだけど。男共は樹里に近づかない」
「樹里って1人で居る時は“近寄るな”ってオーラ出まくってるしね」
大翔くんの前では女の子って感じだけど。
「後悔はしたくなかったの。だから、夏休みを利用して樹里に会いに来た」
「良かったら変わらず仲良くしてやって。樹里も昔みたいに仲良くしたいみたいだから。」
大翔くんは樹里のことをしっかり理解しているようだった
「樹里にも信頼出来る人、出来たんだね」
それに、大翔くん良い人そうだし。
「最初は樹里に警戒されてたよ。でも、樹里の友達に無理矢理ね…。一緒に帰るうちに慣れてた」
「でも、その警戒心がほぐれたのも大翔くんのおかげでしょ?」
じゃないと樹里は1人で行動してるから。
大翔くんが優しいから樹里は心を許してる
「樹里はあたしの自慢出来る親友だよ。樹里だけは失いたくないんだ」
「奈那と樹里って正反対だよな。」
確かにそれは良く言われる
樹里は可愛いし自分の意志をしっかり持ってる
それに比べてあたしは…
意地っ張りで素直じゃない
だけど、樹里の前だと素直になれる
それは紛れもなく優しくて笑顔が可愛い樹里だから…
「あたし達が出会ったのは中学の入学式なの。」
あたしの荷物を届けてくれたのが樹里だった
「学校の近くのベンチに荷物を忘れてて…。樹里が届けてくれたんだ」
「樹里はどうして奈那の荷物って分かったんだ?」
「あたし、風景の写真見るのが好きで入学式前に本を見てたの。それに名前を書いてたんだ」
とても大事な本だったから…
「クラスが一緒で席も前後だったから仲良くなったんだよ」
名前順なら“高千穂”と“寺田”で近いしね
「声が出ないなんて関係なかった。直感でこの子と仲良くなりたいって思ったんだ」
だから、樹里が転校したって聞いた時は信じられなかった
だって、高1の終了式の時に“また始業式にね”って普通に会話してたから。
「あたしが親友で大事だと思えるのはこれから先も樹里だけで良い」
「奈那は樹里のこと大事に想ってるんだな」
樹里みたいに気が合う子は他には居ないから。
「大翔くんだって樹里のこと大事でしょ?」
「もちろん。樹里以外を好きになるなんて考えられない」
樹里、良い人に出会えたね…
「樹里、本当に可愛くなった。明日、着せ替え人形にでもしようかな」
久しぶりに樹里と遊べるんだ
思いっきり楽しまなきゃ樹里に会いに来た意味がない
-----ドン
「えっ?なに?」
今、凄く鈍い音がした
「樹里だ!!」
大翔くんはすぐに樹里だと勘づき脱衣所に向かう
あたしも気になって大翔くんに付いて行った