「アドレスも変更して連絡もつかないし担任に場所を聞いて探しに来たんです。元気そうで良かったぁ…」
「樹里は元気だよ。会うことも出来ると思うけど、どうする?」
「会ってくれるかな…」
高千穂は不安そうな顔をした
「俺も協力するよ。今、学校に居て担任の手伝いをしてるんだ」
「終わってからで良いから会いたい」
“何時になるか分かんない”と言ったら“それでも良いです。待ってるから”と言っていた
「高千穂。公園の日陰のところで待ってて」
「奈那で良いです。樹里にはあたしに会ったことは内緒にしておいて下さい」
“サプライズしたいから”と笑顔で言っていた
「同い年だから敬語じゃなくて良いよ」
“同い年”と聞いた奈那はびっくりしていたけど樹里の居場所が特定出来てホッとしていた
“樹里はちゃんと連れて行く”と約束して奈那と別れた
会議室に戻ると小牧と樹里は昼食をとっていた
「大翔、何処に行ってたんだよ」
多少、不機嫌な小牧をよそに樹里の隣に座る
《おかえり》
口パクで出迎えてくれる時は調子が良いな
「ただいま。遅くなった」
《教えてくれたから大丈夫だよ》
やっぱりメールしといて正解だったな
「大翔、冷めないうちに食べろ。大翔が食べ終わったら作業再開するぞ」
他愛のない話をしながら昼食を食べる
そして、作業を再開させた
樹里は首を傾げた後、小牧をポンポンと叩き名簿のある部分を指差した
“佐々木廉”
樹里は知ってるのか?
小牧は“あっ”と呟いた後、話し出した
「樹里の前の学校の担任が佐々木先生だったな」
樹里は小さく頷いた
「俺の大学の先輩なんだ。今でも交流があるよ」
小牧の言葉にびっくりしているけど、樹里は嬉しそうだ
「夏休みの最後に研修があるからさ。これはその時の資料なんだ」
「そんな資料、俺らが纏めて良いわけ?」
絶対、見てはいけない重要なこと書いてあるよな
「樹里と大翔に頼んだのは資料の内容を何も言わないと思ったから」
他のヤツに頼むと口出ししそうだしな
「あっ、樹里。飲み物」
渡すの忘れてた
「もう、ぬるくなってんじゃねーの?そろそろ終わるしアイス買ってきてやる」
小牧は再び居なくなった
あの人、仕事をほったらかしにすること多いな。
俺達は小牧が居ない間、黙々と作業に取りかかった
「よし、これで最後」
樹里がホッチキスで止めて全ての作業が終了した
《終わったね》
「そうだな。お疲れさん」
俺は樹里の頭を撫でた
「おぉ~。終わったか。ありがとう」
小牧は小さな袋を俺らに渡した
「頑張ってくれたご褒美な。2人で食べろ」
中身はアイス
アイスを見た樹里は微笑んだ
「アイス好きなの?」
俺が聞くと笑顔で頷いた
作業終わりのアイスは美味いな。
「手伝ってくれてありがと。残りの夏休み楽しめよ。課題もしっかりな」
それだけ告げると纏めた書類を持って去っていった
相変わらず、騒がしいヤツだな。
まぁ、接しやすい人だけど。
「樹里、帰るか。」
アイスを食べ終えた樹里は小さく頷いた
「忘れ物がないようにな」
忘れ物がないようにチェックして学校を出る
遅くなったな。
樹里には何も伝えぬまま公園に向かう
公園に行くと日陰にあるベンチに奈那を発見
「樹里…?どうした?」
奈那に気付いた樹里の足が止まった
そして、奈那も俺らに気付く
「樹里?樹里だよね?」
奈那は立ち上がる
《どうして?》
樹里は困惑した表情を見せた
「樹里が話してくれたのって、あの子のことだろ?」
俺の問い掛けに力強く頷いた
《怖い》
と書いた後、俺に抱きつき離れそうにない
「大丈夫。大丈夫だから」
樹里の背中をさすりながらそう呟く
「樹里、ゆっくりで良いんだよ」
無理する必要はない
《離れない?》
「もちろん。樹里から離れることはない」
樹里を1人になんてしない
たまには背中を押すことも重要。
「奈那が待ってるぞ。行っておいで」
俺は樹里の背中をポンポンと優しく叩いた
樹里はゆっくりと歩き出した
時折、振り返って俺の顔を見る
“大丈夫”という意味も込めて笑顔で微笑む
樹里はゆっくりと奈那に近づいていた
「樹里なんだよね?」
奈那の言葉に頷く樹里の姿が見えた
2人が何を話してるかは分からない
だけど、樹里が一歩を踏み出す理由を作ってくれたのは紛れもない、此処に来てくれた奈那のおかげだ
2人が笑ってればそれで良い
思わぬ再会
まさか君がこの場所に
居るなんて
思わなかった
でも、変わってなくて
安心したし
怒ってなくて良かった
本当はね
あたしも君に
会いたかったんだよ
***************
小牧先生の手伝いを終えて今は学校を出た
大翔は何も話さない
大翔の声、好きなのに…
何も話さないまま着いた先は公園
日陰のベンチには人影が見えた
近くなるに連れ顔が分かる
その顔を見て足が止まる
……どうして?
どうして、貴女が此処に居るの?
あたしは大翔に抱きついたまま、離れたくなかった
……怖い、怖い。
だけど、大翔が背中を押してくれてあたしは前に進めた
「樹里なんだよね?」
と聞く貴女も変わってないね
《どうして?》
あたしは咄嗟にそうボードに書いた
「手紙に書いたよね?探しに行くって。佐々木先生に聞いてやってきたの」
あの手紙の内容は本当だったんだ。
嬉しさと戸惑いで涙が出る
「なんで、あたしに何も言わずに引っ越すのさー!!あたし、寂しかったんだからね」
奈那は目に涙を溜めながらあたしを抱きしめてくれた
「一言くらい言って欲しかったよ。樹里のバカ。グスッ…」
身長の高い奈那。
そんな奈那にあたしはすっぽり収まる
「ずっと、会いたかったの。だから、樹里を探しに来た。だけど、学校の場所しか聞いてなくて…」
“どうしようかと思ったらあの男の子に会ったんだ”と大翔のことを指差した
だから、大翔は奈那の名前を知ってたんだね
「勇悟も樹里のこと、心配してたんだからね」
椎田勇悟(シイダユウゴ)くん
奈那の彼氏の名前
《ごめん》
口パクで言ったの分かってくれるかな…?
「謝らないの。こうやって元気な顔見れて安心したよ」
やっぱり奈那は優しい人だ。
……あっ、そういえば大翔は?
大翔はフェンスに寄っ掛かっていた
あたしが見ているのに気付いてくれてこっちに近寄ってくる
「樹里、話せたか?」
大翔の問い掛けにあたしは頷いた
大翔が背中を押してくれたおかげだよ
「相馬くん、樹里のこと教えてくれてありがとう。教えてくれなかったら諦めて帰ってた」
もしかして、ジュース買いに行くと言って遅かった理由は奈那と話してたのかな?
「俺はなにもしてないよ」
大翔はあたしの頭を撫でながら話していた