《開けて良いの?》
「もちろん。開けてごらん」
樹里は恐る恐る紙袋を開けた
中には新しいホワイトボードとカメラ
しかも、結構上等なヤツ
中身を見て驚いた樹里はペンを走らせて直樹さんに見せていた
《あたしが欲しがってたヤツ、良く分かったね》
「ホワイトボードは使い込んでたしカメラは樹里の相棒だろ?」
愛娘のことは良く分かってるんだな
《確かにそうだけど…。良かったの?》
樹里は申し訳なさそうな顔をした
「新しいカメラで真新しいランドセルを背負った樹音を撮ってあげて」
《明日入学式だもんね。お父さんも一緒に写らなきゃダメだよ》
樹里の書いた言葉を見て直樹さんは笑った
その笑った顔が樹里とそっくり
樹里は直樹さんに似たんだな
「そこには樹里も入らなきゃダメだぞ?」
俺の言葉に樹里は首を傾げた
「樹里と樹音、直樹さん。3人で撮ることに意味がある。だから、俺が撮ってやるよ」
せっかくの大事な家族なんだから。
「不思議な顔、してるな。俺も写真撮るの好きだから。」
それを聞いた樹里はニコッと微笑んだ
「外、出てみるか?」
俺の言葉に樹里は渋い顔をした
「樹里、此処でなら大丈夫だろ?ビクビクしなくて良いんだよ。大翔君も冬華ちゃんも居るんだから」
「冬華がダメなら俺で良ければ相手する。無理はしなくて良いからな」
無理に外に連れ出すより樹里の気持ちの整理が出来てからの方が良いと思った
「ゆっくり考えると良い」
直樹さんだって急がせないみたいだ
「俺だって“急げ”とは言わないよ。だから、ゆっくりで良い」
樹里は涙を流していた
《部屋に行くね》
と書いて荷物を持ち出て行った
目にたくさんの涙を溜めて。
「大翔君、樹里を頼むよ」
「分かりました」
それだけ告げると樹里の背中を追った
恋なんてしないと思った
だけど、樹里を見てると放っておけなくて…
支えてあげたいと思った
女なんて興味なかった
めんどくさいモノだと思ってた
だけど、樹里は違う
樹里の笑顔が可愛くて…
キュンとして…
一瞬にして心を奪われた
この子の近くに居たいと強く思った
恋なんてしないと思ってた俺が…
出会って間もない可愛らしい君に恋をした
君を目の当たりにすると
安心するんだ
今まで強がってた
自分が君の前だと
弱い自分になる。
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お父さんと大翔に泣き顔を見せたくなくて…
荷物を抱えて逃げた
そして、ベッドの上でうずくまる
“ゆっくりで良い”と2人に言われて込み上げるモノがあった
思い切り泣きたいけど、声が出ない
その代わり涙は止まる気配がない
「樹里、居るんだろ?入るぞ」
大翔の声がした。
“入らないで”って言いたい
“ダメ”って言いたい
でも、言えない
「やっぱり泣いてたか」
……バレてる。
泣いたこと怒られるかな?
叩かれるかな?
怖くなってその場から動けなかった
「震えなくても大丈夫だよ」
そう言いながら抱き締めてくれた
《怒らないの?叩かないの?》
涙でグチャグチャになったまま一生懸命書いた
「怒るわけないじゃん。俺は樹里の支えになりたい」
そう言われ再び涙腺が崩壊した
「樹里のこと、直樹さんに聞いたんだ。」
お父さん、教えたんだね
「我慢しなくて良いよ。泣きたいだけ泣けば良い。俺は傍に居るから」
その言葉が素直に嬉しかった
言って欲しかった。
“我慢しなくて良い。泣いて良い”って…
でも、お父さんや樹音に心配掛けてられなくて泣かずにいた
強がっていた
だけど、今となりで抱き締めてくれている君の前だと弱くなる
“強がらなくて良いんだ”って安心感があるんだ
あたしはひたすら泣き続けた
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……ん?
朝の眩しい光で目が覚める
もう、朝なの?
覚醒するまでに時間が必要だった
「あっ、樹里。起きたか?おはよ」
誰かの声がして体勢を変える
そこには居るはずのない大翔の姿
「昨日、泣き疲れて寝たんだよ。心配だったから早く起きて来てみた」
そういえば、泣いたんだっけ?
起き上がるのが辛くて手探りでボードを探す
「探し物はこれか?」
大翔はボードを渡してくれた
《昨日はありがとう。ごめんなさい。朝早くに来てくれたんだね》
書いたボードを大翔に見せる
「俺の家、此処から近いから。一人暮らしだしな」
大翔って一人暮らしなんだ…。
《いつから一人暮らしなの?》
「高校入学からだな。実家は隣町なんだ」
また一つ大翔のことが知れた
「学校行くか。」
《動きたくない》
身体がダルい
「樹音の写真、撮るんだろ?俺も自分のカメラ持ってきた」
そういえば、写真撮る約束してたね
「時間はあるし学校までは近いしゆっくりで良いよ」
あたしは大翔の制服の裾を掴んだ
離れたくなかった
「とりあえず、制服に着替えろ。」
大翔はあたしの頭を撫でてから一旦、部屋を出た
あたしも制服に着替える
昨日も思ったけど、この制服…似合ってるかな?
鏡の前でチェックしてみる
「樹里ー?準備出来たか?」
あたしは終わったことを示す為にドアを叩いて知らせた
「似合ってんじゃん」
ポンポンと頭を撫でられる
大翔は怒らない
寧ろ、優しく接してくれる
冬華と同じで…
「お姉ちゃーん?朝ご飯出来てるよ」
樹音が呼びに来てくれた
あたしは素早く朝ご飯を食べて支度をしカメラを準備する
せっかくなんだ
樹音とお父さんを撮ってあげよう
「樹里、おはよう。」
朝早くから畑仕事をしているおじいちゃんとおばあちゃんが挨拶をしてくれた
あたしもお辞儀して返す
そしてペンを走らせた
《樹音、入学式だから写真撮るよ。おばあちゃん達も一緒に撮ろ?》
「この格好でかい?」
「着飾るのも大事ですけどそのままで写るのも良いことです。」
話せないあたしの代わりに大翔が話してくれた
「撮ってあげます。だから、一緒に並んで下さい。」
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」
玄関の前で写真を撮ることになった
家族5人、樹音とお父さんを境に並ぶ
「撮りまーす」
----カシャッ
「もう撮ったのかい?」
おばあちゃんはビックリしている
後はおばあちゃん達と樹音、お父さんと樹音、あたしと樹音という風に大翔は何枚か写真を撮ってくれた
「大翔君、ありがとう」
「いえ。俺に出来ることをやっただけですから」
大翔は優しいね
「樹里ー?学校行くよ」
冬華が迎えに来てくれた
「あれ、大翔。なんで居るの?」
「樹音の写真、撮ってたんだ」
大翔も写真撮るの好きなんだって見てるだけで分かった