いつもは助手席には樹音が座ってたから。
話せる樹音がお父さんの相手をしてた
「遠慮しなくて良いからな。せっかく出来た時間だから楽しんで来い。」
なんだかんだいって大翔もちゃっかり見送りに来てくれた
「パパ、いってらっしゃい。お姉ちゃんと仲良くね?」
お父さんは頷くと車を発進させた
「樹里、さっき大翔くんが言ってたけど遠慮しなくて良いからな」
こういう時、話せたら嬉しいんだけどな。
~♪~♪~♪~
メールだ。相手は大翔
**********
直樹さんとの時間
思いきり楽しんで来い
今まで我慢して
甘えられなかった分
甘えておいで。
直樹さんにとって
樹里は大事な
家族なんだからな
**********
大翔はちゃんと考えてくれてるんだ
「メールの相手は大翔くんだね?」
信号に止まっているお父さんが話し掛けてきた
“なんで分かったの?”という意味を込めて首を傾げる
「そりゃあ、分かるさ。あの子はちゃんと樹里のこと、考えてくれてるしな。」
お父さんは優しく微笑んでくれた
「それに今日、こうやって旅行が実現出来たのは父さんの後押しもあるけど大翔くんが居たからだよな」
あたしは相槌を打つ
確かに大翔のおかげでもあるよね
「遠慮しなくて良いからな。俺も樹里との時間が出来て嬉しいから」
そう思ってくれてるなら嬉しいな
旅行が決まって“何処に行きたい?”って聞かれてあたしは“のんびり出来るところ”と答えた
お父さんと一緒なら何処でも良い
「足だけでも浸かって涼むか。」
そういってお父さんは駐車場に車を止めた
「この近くに夏でも楽しめる足湯があるんだ。浸かるのは冷水な」
“出張に来たときに見つけたんだ”と教えてくれた
着いた足湯の隣には茶屋があった
足湯まで持ってきてくれるみたい
「足湯に浸かりながらデザートでも食べよう」
ちょうど小腹が空いた
お父さんはかき氷を2つ頼んでいた
お酒飲まない代わりに甘いもの好きなんだよね
太らない体質なのが羨ましい
「座ろうか」
お客さんも少なく貸切状態
荷物を置きお父さんの隣に座り足を浸ける
そういえば、お父さんの隣に座ったのはいつぶりだろう
お父さんと2人で出掛けることなんて初めてかもしれない
「お待たせしました。かき氷ですね」
店員さんがかき氷を持ってきてくれた
「ありがとう」
お父さんがお礼を言った後、あたしも頭を下げる
イチゴ味のかき氷にバニラアイスが乗っていた
《お父さん、そのまま》
そう書いたボードを見せてカメラを取り出し写真を撮る
「樹里は相変わらず写真を撮るのが早いな」
小さなことでも写真に残しておきたいから。
「樹里に父親らしいこと出来てるか?」
お父さんは真剣な顔をした
「真子(マコ)が樹音の育児放棄をして、家出して離婚して…。樹音を育てるので必死で樹里の相手出来てなかったよな」
お父さんはかき氷を食べながら話してくれる
あたしはただ、聞くしか出来ないけど…。
聞かなきゃいけないって思った
“真子”ってお母さんの名前
久しぶりに聞いたな
「樹里が生まれた時は真子も喜んでたんだぞ。“女の子が生まれたら樹里って名前にしたい”って言ってたくらいだし」
あたしの名前、お母さんが付けてくれたんだ
「仕事と子育てが上手く両立出来なくてストレスが溜まってたみたいでさ。2人を置いて出て行った時はどうしようって思ったよ」
お父さんも大変だったんだね
「樹音はまだ小さかったから手は掛かるし、樹里にまで手が回らなかったんだ。ごめんな」
お父さんの意見、聞けて良かった
「樹里には今までたくさん迷惑や負担掛けて来た。この旅行くらいは甘えて良いからな」
あたしは小さく頷いた
「今は樹里だけの父親だから。ワガママ言ったって怒らないよ」
お父さんはあたしの頭を撫でてくれた
かき氷を食べながらボードを使ってお話した
お父さんと2人だけの時間って久しぶりだ
「ドライブしよう。」
この旅行の行き先は決まってない
予定は未定で行き当たりばったりってヤツ
「展望台があるみたいだぞ」
展望台に行くことになった
駐車場に車を止めて歩いて行く
夏場ということもあり暑い
日焼け止めは塗ったから大丈夫。
「樹里、写真撮っておけよ。アルバム作るんだろ?」
お父さんはあたしがアルバムを作ることを知っている
カメラが相棒となった時から暇つぶしにアルバムを作っていた
何気ない日常をカメラに収める
お父さんの後ろ姿とか横顔とか…
お父さんの写真撮るの久しぶりだなぁ…。
「ほら、着いた。」
展望台に着くと真っ青な海が見えた
いい眺め…。
大翔にも間近で見せてあげたかった
あたしはひたすら写真を撮っていた
「樹里、こっち向け」
お父さんの声がして振り向くと写真を撮られた
なんだかんだいってお父さんもデジカメ持って来てるし。
お父さんが撮った写真も一緒にアルバム作ろう
「おねーちゃん?」
聞いたことのある可愛らしい声がして振り向く
「やっぱりおねーちゃんだ」
声の主は花菜ちゃん
「花菜、勝手に1人で行動するなって言ってるだろ?」
そういって花菜ちゃんを追い掛けて来たのは奏哉さんだった
「だって、おねーちゃんがみえたから…」
花菜ちゃんはあたしの足にしがみついていた
「花菜が走り出したと思ったら樹里ちゃんを追い掛けてたんだな。お前の記憶力には参るよ…。樹里ちゃん、久しぶり」
あたしは笑顔でお辞儀をした
「樹里、知り合いかい?」
お父さんは奏哉さんに会うの初めてだった。
《最近、仲良くなった人なの。佐々木先生の知り合いみたいで笠原高校の先輩なんだ》
と書いたボードを見せる
「そっか。娘がお世話になってます。樹里の父です」
「いいえ。こっちも娘がお世話になってまして…。村瀬奏哉です。宜しくお願いします。この前、娘が迷子になったのを助けてくれたのが樹里ちゃんなんです」
2人は軽く自己紹介をした
「おねーちゃん、やさしかったもん」
やっぱり花菜ちゃん、可愛いな。
《奏哉さん、花歩さんは?》
見渡すと花菜ちゃんと奏哉さんしか居ない
「花歩は友達と遊びに行ってて、李花と未歩は母さん達と一緒。今日は花菜の相手だよ」
「きょうはね、パパとおでかけなんだよ」
と嬉しそうに話す花菜ちゃん
「なにかと花菜の相手出来てなくてさ、今日くらいは甘えさせてあげようかと…」
奏哉さんは花菜ちゃんを抱き上げた
「おねーちゃんのとなり、だれ?」
《あたしのおとうさん》
「おねーちゃんのパパ?」
花菜ちゃんの問い掛けに頷くあたし。
「むらせかなです。よろしくおねがいします」
花菜ちゃんは律儀に挨拶していた
「花菜ちゃんって言うのか。宜しくな」
お父さんは花菜ちゃんの頭を撫でる