【更新中】キミの声、聞かせて

「家族にくらいは甘えて良いんだよ。樹里は家族にまで遠慮してるな」


「そうそう。だから、遠慮しなくて良いんだよ」


ばあちゃん達も樹里が遠慮してること気付いてるんだな。


「琴音や亮介も居るんだ。樹里は1人じゃない」


俺も樹里の頭を撫でる


「直樹のおかげで話さなくて済んだね」


そういえば、寝静まった頃に話そうとか言ってたな。


「大翔くん、樹里のやりたいことさせてあげてな」


「はい。分かりました」


もちろん、そのつもりでいたけどな。


「そうだ。今度ゆっくりと樹里と直樹で出掛けてくると良いよ」


《でも、樹音が居る》


やっぱり妹の心配をするんだな


「樹音はあたし達が見てる。樹里はお父さんと2人の時間が少ないだろ?」


直樹さんも樹里も頷いていた
「たまには父親と2人で出掛けるのも良いだろ。直樹も樹音に手が掛かって樹里の相手出来てないしな」


じいちゃんも気付いてる


「樹里が良いならで良い。無理にとは言わないよ」


直樹さんも優しく語り掛ける


樹里は迷ってるようだった


「せっかくだから行ってきたら?たまには直樹さんを独り占めして良いんだよ」


樹里のことだから我慢してるんだよな


《お父さんはお仕事大丈夫なの?》


「仕事の心配はしなくて大丈夫。」


《1日くらいは甘えても良い?》


「あぁ。樹里の行きたいとこ連れて行ってやる」


それを聞いた樹里は笑顔になった


他愛のない話をした後、寂しいと言った樹里と一緒に寝ることになった


樹里は可愛らしい寝顔を見ながら俺も眠った
夏休みになりました

君と過ごす

初めての夏休み

たくさん思い出を

作っていきたい

***************


夏休みになりました


終業式の日には大量の課題を出された


勉強はしたくないけど仕方ない


大翔が泊まりに来てくれたあの日


お父さんと出掛けることが決まった


樹音が生まれてからお母さんは育児放棄ののち家出、お父さんは仕事


お父さんが仕事の時は樹音の面倒はあたしが見てた


休みの日はお父さんが樹音のお世話に取られてたからお父さんと2人で出掛けるなんて専らなかった


話せないからお父さんに頼りたかったけど、それも出来なくて…


いつの間にか、1人で抱え込んでしまうようになってしまった


でも、大翔のおかげで少しずつ変わってる気がする
「お姉ちゃん、楽しんで来てね。」


今日はお父さんとの2泊3日の2人旅


樹音はおじいちゃん達とお留守番


「樹音のこと頼みます」


「せっかくの2人旅なんだから楽しんで来なさいね。樹音のことは任せて」


おばあちゃんは樹音の頭を撫でる


「樹里、忘れ物。これがないと話せないだろ?」


大翔が持ってきてくれたのはホワイトボード


あっ、忘れてた…。


大事な必需品


「さっきもチェックしたし忘れ物はないよな?」


大翔の問い掛けに頷く


「楽しんで来いよ。帰ってきたら話し聞かせてな」


あたしは笑顔で頷いた


「さっ、行こうな」


お父さんの車に乗り込む


「樹里、助手席で良いよ」


いつもの癖で後部座席に座ろうとしてた
いつもは助手席には樹音が座ってたから。


話せる樹音がお父さんの相手をしてた


「遠慮しなくて良いからな。せっかく出来た時間だから楽しんで来い。」


なんだかんだいって大翔もちゃっかり見送りに来てくれた


「パパ、いってらっしゃい。お姉ちゃんと仲良くね?」


お父さんは頷くと車を発進させた


「樹里、さっき大翔くんが言ってたけど遠慮しなくて良いからな」


こういう時、話せたら嬉しいんだけどな。


~♪~♪~♪~


メールだ。相手は大翔


**********
直樹さんとの時間
思いきり楽しんで来い
今まで我慢して
甘えられなかった分
甘えておいで。
直樹さんにとって
樹里は大事な
家族なんだからな
**********


大翔はちゃんと考えてくれてるんだ
「メールの相手は大翔くんだね?」


信号に止まっているお父さんが話し掛けてきた


“なんで分かったの?”という意味を込めて首を傾げる


「そりゃあ、分かるさ。あの子はちゃんと樹里のこと、考えてくれてるしな。」


お父さんは優しく微笑んでくれた


「それに今日、こうやって旅行が実現出来たのは父さんの後押しもあるけど大翔くんが居たからだよな」


あたしは相槌を打つ


確かに大翔のおかげでもあるよね


「遠慮しなくて良いからな。俺も樹里との時間が出来て嬉しいから」


そう思ってくれてるなら嬉しいな


旅行が決まって“何処に行きたい?”って聞かれてあたしは“のんびり出来るところ”と答えた


お父さんと一緒なら何処でも良い
「足だけでも浸かって涼むか。」


そういってお父さんは駐車場に車を止めた


「この近くに夏でも楽しめる足湯があるんだ。浸かるのは冷水な」


“出張に来たときに見つけたんだ”と教えてくれた


着いた足湯の隣には茶屋があった


足湯まで持ってきてくれるみたい


「足湯に浸かりながらデザートでも食べよう」


ちょうど小腹が空いた


お父さんはかき氷を2つ頼んでいた


お酒飲まない代わりに甘いもの好きなんだよね


太らない体質なのが羨ましい


「座ろうか」


お客さんも少なく貸切状態


荷物を置きお父さんの隣に座り足を浸ける


そういえば、お父さんの隣に座ったのはいつぶりだろう


お父さんと2人で出掛けることなんて初めてかもしれない
「お待たせしました。かき氷ですね」


店員さんがかき氷を持ってきてくれた


「ありがとう」


お父さんがお礼を言った後、あたしも頭を下げる


イチゴ味のかき氷にバニラアイスが乗っていた


《お父さん、そのまま》


そう書いたボードを見せてカメラを取り出し写真を撮る


「樹里は相変わらず写真を撮るのが早いな」


小さなことでも写真に残しておきたいから。


「樹里に父親らしいこと出来てるか?」


お父さんは真剣な顔をした


「真子(マコ)が樹音の育児放棄をして、家出して離婚して…。樹音を育てるので必死で樹里の相手出来てなかったよな」


お父さんはかき氷を食べながら話してくれる


あたしはただ、聞くしか出来ないけど…。


聞かなきゃいけないって思った
“真子”ってお母さんの名前


久しぶりに聞いたな


「樹里が生まれた時は真子も喜んでたんだぞ。“女の子が生まれたら樹里って名前にしたい”って言ってたくらいだし」


あたしの名前、お母さんが付けてくれたんだ


「仕事と子育てが上手く両立出来なくてストレスが溜まってたみたいでさ。2人を置いて出て行った時はどうしようって思ったよ」


お父さんも大変だったんだね


「樹音はまだ小さかったから手は掛かるし、樹里にまで手が回らなかったんだ。ごめんな」


お父さんの意見、聞けて良かった


「樹里には今までたくさん迷惑や負担掛けて来た。この旅行くらいは甘えて良いからな」


あたしは小さく頷いた


「今は樹里だけの父親だから。ワガママ言ったって怒らないよ」


お父さんはあたしの頭を撫でてくれた