「小さい頃からピーマンを見ると泣いてたものね」
《だって、巨大なピーマンに襲われた夢見たんだもん。好きになれない。吐き気がする》
「そんな理由があったのかい。無理に食べようとしなくて良いよ」
ばあちゃんは樹里のピーマン嫌いの理由を知って笑いながらも優しい言葉を掛けていた
「そういえば、じいちゃんと直樹さん。お酒飲まないんですか?」
「2人を育てるのに必死で飲む暇もなかったし。お酒飲むくらいなら樹里達の相手をしようかと。仕事の関係もあるけどね」
直樹さんは飲まない理由を教えてくれた
「お酒を飲むと2人してすぐに赤くなるんだ。だから、お茶くらいがちょうど良い」
じいちゃんはそういうとコップに入ってる麦茶を啜った
「酒よりお茶が好き。只でさえ話せない樹里に酔っ払ってしまったら迷惑掛けるからな」
直樹さんなりに考えているんだ
他愛のない話をしながらじいちゃん達との時間を楽しんだ
樹里の家族は優しいから好きだな。
「樹里、大翔くん。2人の時間を邪魔したみたいでごめんな」
《謝らないで。樹音だって寂しいのは分かってるから。》
樹里は直樹さんの言ってる意味が分かったらしくペンをそう走らせていた
「でも、樹里。樹音に大翔くんを取られただろ?」
確かに…樹里の相手、出来なかったな
「樹音も大事だけど、樹里ももう少し甘えて良いんだよ?大翔くんは樹里が信頼している人なんだろ?」
直樹さんの問い掛けに頷く樹里
確かに、もう少し甘えても良いと思う
樹里は頑張りすぎなんだ。
自分の気持ちに制限を掛けてるんだ
「樹里は1人じゃないんだよ?ビクビクしないでのびのびとしてて良いんだよ」
直樹さんは樹里の頭を撫でる
「此処に来たのは俺の仕事の都合でもあったけど、1番は樹里の静養のためでもある。だから、樹里のしたいようにして良いんだよ」
《話せないことで只でさえ迷惑掛けてて樹音も居るのに更に迷惑は掛けられない》
樹里は目に涙を溜めていた
「樹里は頑張りすぎなんだよ。もう少しワガママ言ったって俺も直樹さんも冬華も文句は言わないよ」
直樹さんの話を聞いて樹里のことを知ることが出来た
「大翔くんだってこう言ってくれてるんだ。無理に頑張る必要はないさ」
樹里の目から大きな雫が零れ落ちた
「家族にくらいは甘えて良いんだよ。樹里は家族にまで遠慮してるな」
「そうそう。だから、遠慮しなくて良いんだよ」
ばあちゃん達も樹里が遠慮してること気付いてるんだな。
「琴音や亮介も居るんだ。樹里は1人じゃない」
俺も樹里の頭を撫でる
「直樹のおかげで話さなくて済んだね」
そういえば、寝静まった頃に話そうとか言ってたな。
「大翔くん、樹里のやりたいことさせてあげてな」
「はい。分かりました」
もちろん、そのつもりでいたけどな。
「そうだ。今度ゆっくりと樹里と直樹で出掛けてくると良いよ」
《でも、樹音が居る》
やっぱり妹の心配をするんだな
「樹音はあたし達が見てる。樹里はお父さんと2人の時間が少ないだろ?」
直樹さんも樹里も頷いていた
「たまには父親と2人で出掛けるのも良いだろ。直樹も樹音に手が掛かって樹里の相手出来てないしな」
じいちゃんも気付いてる
「樹里が良いならで良い。無理にとは言わないよ」
直樹さんも優しく語り掛ける
樹里は迷ってるようだった
「せっかくだから行ってきたら?たまには直樹さんを独り占めして良いんだよ」
樹里のことだから我慢してるんだよな
《お父さんはお仕事大丈夫なの?》
「仕事の心配はしなくて大丈夫。」
《1日くらいは甘えても良い?》
「あぁ。樹里の行きたいとこ連れて行ってやる」
それを聞いた樹里は笑顔になった
他愛のない話をした後、寂しいと言った樹里と一緒に寝ることになった
樹里は可愛らしい寝顔を見ながら俺も眠った
夏休みになりました
君と過ごす
初めての夏休み
たくさん思い出を
作っていきたい
***************
夏休みになりました
終業式の日には大量の課題を出された
勉強はしたくないけど仕方ない
大翔が泊まりに来てくれたあの日
お父さんと出掛けることが決まった
樹音が生まれてからお母さんは育児放棄ののち家出、お父さんは仕事
お父さんが仕事の時は樹音の面倒はあたしが見てた
休みの日はお父さんが樹音のお世話に取られてたからお父さんと2人で出掛けるなんて専らなかった
話せないからお父さんに頼りたかったけど、それも出来なくて…
いつの間にか、1人で抱え込んでしまうようになってしまった
でも、大翔のおかげで少しずつ変わってる気がする
「お姉ちゃん、楽しんで来てね。」
今日はお父さんとの2泊3日の2人旅
樹音はおじいちゃん達とお留守番
「樹音のこと頼みます」
「せっかくの2人旅なんだから楽しんで来なさいね。樹音のことは任せて」
おばあちゃんは樹音の頭を撫でる
「樹里、忘れ物。これがないと話せないだろ?」
大翔が持ってきてくれたのはホワイトボード
あっ、忘れてた…。
大事な必需品
「さっきもチェックしたし忘れ物はないよな?」
大翔の問い掛けに頷く
「楽しんで来いよ。帰ってきたら話し聞かせてな」
あたしは笑顔で頷いた
「さっ、行こうな」
お父さんの車に乗り込む
「樹里、助手席で良いよ」
いつもの癖で後部座席に座ろうとしてた
いつもは助手席には樹音が座ってたから。
話せる樹音がお父さんの相手をしてた
「遠慮しなくて良いからな。せっかく出来た時間だから楽しんで来い。」
なんだかんだいって大翔もちゃっかり見送りに来てくれた
「パパ、いってらっしゃい。お姉ちゃんと仲良くね?」
お父さんは頷くと車を発進させた
「樹里、さっき大翔くんが言ってたけど遠慮しなくて良いからな」
こういう時、話せたら嬉しいんだけどな。
~♪~♪~♪~
メールだ。相手は大翔
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直樹さんとの時間
思いきり楽しんで来い
今まで我慢して
甘えられなかった分
甘えておいで。
直樹さんにとって
樹里は大事な
家族なんだからな
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大翔はちゃんと考えてくれてるんだ
「メールの相手は大翔くんだね?」
信号に止まっているお父さんが話し掛けてきた
“なんで分かったの?”という意味を込めて首を傾げる
「そりゃあ、分かるさ。あの子はちゃんと樹里のこと、考えてくれてるしな。」
お父さんは優しく微笑んでくれた
「それに今日、こうやって旅行が実現出来たのは父さんの後押しもあるけど大翔くんが居たからだよな」
あたしは相槌を打つ
確かに大翔のおかげでもあるよね
「遠慮しなくて良いからな。俺も樹里との時間が出来て嬉しいから」
そう思ってくれてるなら嬉しいな
旅行が決まって“何処に行きたい?”って聞かれてあたしは“のんびり出来るところ”と答えた
お父さんと一緒なら何処でも良い