【更新中】キミの声、聞かせて

何も話すことなく大翔はあたしを抱きしめてくれていた


「落ち着いたか?」


あたしは小さく頷いた


「じゃあ、樹里の家に行こ。」


大翔は荷物を持ってあたしの手を引き家を出た


「怖がることなんてない」


微かに震えてるのを察知した大翔


彼はあたしのことを理解してくれている


「樹里、大翔。」


声を掛けて来たのは冬華だった


冬華のお父さんも一緒


「あっ、話したいことある」


それを聞き2人は察知したのか車を停めて公園へと入った


「大翔、話したいことって?」


「実は……」


大翔はあたしの代わりにさっきの出来事を話してくれた


2人とも驚いていた


「樹里、心配しなくてもお父さんなら分かってくれるから」


昔から冬華の家族は心強い
「そうだよ。何も心配することはない」


冬華のお父さんにそう言われたら少し気持ちが楽になった気がする


「樹里のペースで良いの。あたし達はしっかりサポートするからね?」


冬華が親友であり理解者で本当に良かった


他愛のない話をして冬華達と別れた


「さっ、俺らも行こう」


大翔と一緒に家路につく


「お姉ちゃん、お帰り」


「樹里、お帰り。大翔くんが泊まるって聞いて今日は焼き肉だよ」


野菜を持った樹音とおじいちゃんが出迎えてくれた


おじいちゃんの畑で出来た野菜、大きいんだよね


「樹里はゆっくり休んでな」


《あたしも手伝う》


「良いよ。体調崩したら元も子もないから。此処に居るのは樹里の静養も兼ねてるんだ。甘えなさい」


おじいちゃんが言ってくれてるから甘えよう
「樹里にしては素直だな。よしよし」


大翔はニコッと笑いながらあたしの頭を撫でる


《あたしだってたまには素直になるよ》


「さっきのこともあるしゆっくり休みな。」


小さく頷くと一目散に自分の部屋に向かう


そして、ベッドへと寝転がる


やっぱり寝転がると落ち着く


「無理はするなよ。樹里のペースでゆっくりな。何かあったら頼って良い」


焦らなくて良いんだよね?


あたしのペースで良いんだよね?


大翔のおかげで前に進める


大翔が居るから見える世界が明るいんだ


「無理してもキツいのは樹里だからな。樹里には支えてくれる人が居るんだから。」


頭を撫でながら優しく語りかけてくれる大翔


「おやすみ。ゆっくり休めよ」


その言葉を最後にあたしは意識を手放した
君はね……

1人じゃないよ

俺や家族、仲間が

君の傍に居る


***************


樹里が寝付いたのを確認して樹音が居るところへ行く


「お兄ちゃん、お姉ちゃんは?」


樹音が心配そうに聞いてきた


「寝たよ。だから今はそっとしておこうな」


「大翔くん、ありがとうな」


「いいえ。俺に出来ることをしてるだけです」


それを聞いた樹里のおじいちゃんは安心した表情を見せた


「おばあちゃん、お手伝いしますよ。何かありますか?」


「そうかい?野菜を切るの手伝って欲しいんだけど…」


視線を向けた先には大きな野菜


取り立てということもあり新鮮だ


樹里のおじいちゃんの家は自給自足の生活をしているみたい
樹里の家に限らず田舎町であるこの周辺のお年寄りは自給自足の生活をしている


「どうして畑仕事を頑張るんですか?」


1度は聞いてみたかったこの質問をおじいちゃんに聞いてみる


「畑仕事が趣味でね。元気なうちは自分の育てた野菜を食べたいし。多かったらおすそ分けして喜んでもらいたい」


畑仕事が趣味か…


「あたし達はね、人に喜んでもらいたくて野菜を育ててるんだよ」


とおばあちゃんが話してくれた


「1番は孫達に新鮮な野菜を食べさせたい。それが今のやる気の源なんだよ」


愛されてるな、樹里と樹音


なんかその話を聞いてほっこりした


「大翔くんは手際が良いな」


野菜を切っているとおじいちゃんに褒められた


褒められるって嬉しいけど恥ずかしいな
「高校入学と同時に1人暮らしで自炊をしてるので…」


最初は慣れなくて良く指を切ったりしてたな


「だから、手際が良いのか。そういえば、自己紹介してなかったな。寺田直正(テラダナオマサ)。改めて宜しく」


そういえば、おじいちゃんの名前、知らなかった


「それじゃ、あたしもだね。祖母のタエコ。宜しくね」


直正さんとタエコさん


2人とも優しくて好きだ。


それからは他愛のない話をしながら準備に取りかかった


小さいながらに樹音も手伝ってくれたしな


「樹音、樹里の様子見に行ってきて。」


「はーい。いってくる」


タエコさんに言われ樹里の様子を見に行く樹音


小学1年で甘えたいだろうに本当に姉思いの良い子だな。
「大翔くん、樹里達が寝てから話せるかな?」


タエコさんは聞いてくる


「良いですよ。俺もお話したいと思ってたので」


ちょうど良いきっかけになりそうだ


「俺、祖父母が小さい頃に亡くなってて。記憶がないんです」


「じゃあ、俺達が大翔くんのじいさんとばあさんだな。」


「そうね。大翔くんの呼びやすいように呼んでくれて構わないわよ」


そう言われると嬉しい


「お兄ちゃーん!!」


樹音の声がして振り返る


そこには樹里に抱かれた樹音の姿


樹里に抱かれた樹音はニコニコしていて嬉しそうだ


「樹里、体調は良くなったか?」


じいちゃんの問い掛けに頷く樹里


確かにさっきより顔色が良くなってる気がする
「樹音、おんぶしてやるから来い」


樹里に背を向け樹音を背負う


「樹音も大翔くんのこと気に入ってるんだね」


「うん!!」


樹音は元気良く返事をしていた


「直樹の用事が終わるまで待っておこう。ゆっくりしておいで」


ばあちゃんに言われて時間を潰すことになった


「樹里、公園行くか?気分転換になるだろ?」


お腹空かしに散歩するのも悪くないな


「お兄ちゃん、出かけるの?」


「樹音も一緒に公園行こう」


「やったぁ!!いく!!」


喜ぶ樹音を見て微笑む樹里


お姉ちゃんの顔してる。


「樹音、落ちないように掴まってろよ?樹里はこれな」


俺は樹里の手を握った。


恋人繋ぎってヤツ


顔を真っ赤にする樹里を愛おしく思えた
「ねぇ、お兄ちゃん。しりとりしよー?」


「しりとり?樹里は出来ないな」


樹里に視線を合わせると携帯を取り出し文字を打っていた


《あたしは良い。2人のしりとり聞いとく》


「そっか。じゃあ、樹音。しりとりの“り”からな」


“うん”と頷いた樹音は必死に考えているようだった


「り…リンゴ。次、お兄ちゃん」


「“ご”か。ゴリラ」


「“ら”…?ら…ら…ランドセル!!」


公園に着くまでしりとりは続いた


「よし。公園に着いたからしりとりは終わりな」


「すべり台するー!!」


樹音を下ろすとすべり台の方へと走って行く


「お兄ちゃーん!!はやくー!!」


「行くから遊んで待ってろ」


樹音も大事だけど1番は樹里だ