「樹里と冬華ちゃんは幼なじみさ。保育園からの友達でね。お互いが信頼してる。」
冬華に幼なじみが居たのは知ってたけど…
それが樹里だったんだ
「樹里が声が出なくなって励ましてくれたのも冬華ちゃん。あの子が居なければ今の樹里は存在しないよ」
「樹里はどうして声が出なくなってしまったんですか?」
無性に知りたかった。
樹里が話せない理由を。
知っておくべきだと悟った
「8歳の時に高熱が出てそれが長期間続いてね。原因不明で話せなくなってしまったんだ」
直樹さんは一呼吸して続けた
「皆が話せない樹里を嫌がるなか、冬華ちゃんだけが樹里と普通に接してくれたんだよ」
冬華も優しいとこあるじゃん
でも、それが樹里だから優しくしたんだろうな
「パパ、お姉ちゃんまた薬飲んでたよ」
いつの間にか居なくなってた樹音が戻って来た
「あれだけ変な時間帯に飲むなって言ってたのに。治まらないか…」
……薬ってなんだ?
「あっ、ごめんな。樹里はいくつかの薬を飲んでるんだ。いつも変な時間帯に飲むなって言ってるんだけど…」
樹里が薬を飲む理由があると思うけどな。
「冬華ちゃんは知ってるけど…。君にも言っておくね。その前に様子を見に行かなきゃだな」
直樹さんは立ち上がり歩き出した
「樹里は発作で震えを起こす時がある。薬は震えを抑えるものだ」
「お姉ちゃんが発作を起こすと誰にも止められないの」
樹音は悲しそうな顔をして話した
樹里の発作ってのはそんなに激しいものなのか?
「引っ越して来たばっかりだからまだ片付いてないけど…。此処が樹里の部屋だよ」
直樹さんは一つの部屋のドアの前で止まった
「俺が入っても良いんですか?」
“もちろん”と直樹さんは頷いた
入ってみるとベッドに横たわっている樹里の姿
「さっき、樹音が言った通り樹里が発作を起こすと誰にも止められない。だから、何かあったら大翔君、頼んで良いかい?」
冬華の大事な親友
直樹さんや樹音に話を聞き助けてあげたいと思った
「俺で良かったら冬華と一緒にサポートします」
「ありがとう。冬華ちゃんだけだと無理な部分もあると思うんだ」
……確かにそうだな。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんを宜しくね?」
「分かった。可愛い樹音の頼みは聞かなきゃだな」
樹音は頼もしい妹だ
「樹音にとっての樹里はどんな存在?」
俺は樹音を抱き上げながら聞いてみた
「お姉ちゃんは話せなくても樹音の大事なお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんは優しいから大好き。」
樹音は笑顔で答えた
「樹音ー?お散歩行くけど行く?」
「おばあちゃーん!!行くー!!パパ、行ってきて良い?」
直樹さんは頷いていた
樹音は散歩に行ってしまった
残された俺と直樹さん
「樹里はね、1人で頑張りすぎて倒れたりすることもある。話せない分、分かってもらえないこともあるしな。」
直樹さんは樹里の頭を撫でながら話していた
「樹音が他の同い年の子に比べて大人びて頼もしいのは樹里を支えてあげたいからなんだよ」
確かに小学1年生には見えないな。
「2人とも、イジメられててな…。樹里は“何で話せないんだ”って。樹音は“お前の姉ちゃん話せないんだろ?”って言われたって。」
そんなことがあったんだな
「樹音は“話せなくても大事なお姉ちゃんなんだ。”って叫んだらしいんだ」
「樹音はお姉ちゃん想いですね。」
小さいながらもちゃんと考えてる
「樹里が声が出なくなった理由、もう一つあるんだ。聞いてくれるか?」
……えっ?
「それ、俺が聞いて良いんですか?」
「君だから聞いて欲しいんだ。」
直樹さんの目は真剣だった
「冬華ちゃんと同じで樹里をサポートする気があるなら聞いて欲しい」
……樹里をサポート。
する気はある。
冬華に出来ないサポートは俺がやりたい
俺は力強く頷いた
「後から分かったことなんだが、樹里は母親に暴力を受けてたみたいで。それと高熱がきっかけで声が出なくなったみたいなんだ」
そういえば、樹里の母親見てないな。
「妻とは離婚したんだ。娘は俺が引き取った」
俺が言いたいことが分かったらしく教えてくれた
「樹里は俺らに心配掛けないように耐えてた。夫婦ゲンカばっかりだった。妻の怒りの矛先が樹里だった」
樹里は話せないから耐えるしかなかったんだな。
「仕事が忙しくて樹里の異変に気付いてあげれなかった。もう少し早く気付いてればこんなことには…」
直樹さんは未だに悔やんでるんだな
「今は樹里の病気を回復させるのが優先だから引っ越して来たんだよ」
そういうことだったんだな。
「暴力を受けた母親が近くに居ると分かってたらのびのびと生活出来ないからな」
「だから、引っ越して来たんですね。」
直樹さんは頷いていた
「俺の仕事の異動の話も出てたし樹音は1年生だからタイミング的にも良かった。それに…」
一旦、言葉に詰まったが再び話し始めた
「樹里にはガヤガヤした所よりのんびりした所の方が良いかと思って。学校以外にも外に出てくれたら良いけど…」
「どういう意味ですか?」
気になったので聞いてみた
「不登校の時期があってな。学校を見ると吐き気を起こして動けなくなってたんだよ。食事もしなければ外にも出なかった」
「樹里にもそんな時期が…」
俺は眠っている樹里を見た
気持ちよさそうに寝息を立てて眠っていた
「樹里は何でも1人でこなそうとする。樹里をサポートする気があるなら表情で分かるから見といてな」
「分かりました。俺で良ければ冬華と一緒にお手伝いします」
直樹さんの目を見て頷いた
もっと樹里のことを知りたかった
「良かった。樹里の体調と気分次第だけどいろんな場所に連れて行ってあげて。」
そんな大役、俺で良いのか?
「写真を撮るのが好きだからさ。俺は行くから樹里が起きたらリビングに来るように言っててくれる?」
俺が小さく頷くと直樹さんは“樹里を宜しく”と行って去っていった
樹里、良いお父さんじゃん
こんなに想われてて羨ましいくらいだよ
寝顔、可愛い。癒される
そう思う俺は重症か?
初めて女を可愛いと思った
そんな樹里の頭を撫でる
本当に可愛い
初めて人の役に立ちたいと思った
樹里なら許せる気がする
するとコソコソ動いた樹里はゆっくりと目を開けた
最初はびっくりしていたものの、何処か安心した表情を見せた
「起きたか?」
樹里は小さく頷くとゆっくりと起き上がった
そのまま俺に抱きついてきた
いきなりのことで頭がついていかない俺
でも、かすかに樹里の体が震えているような気がした
「怖い夢でも見たか?」
樹里は俺から離れないままボードを取り何かを書き出した
《昔の出来事が蘇って来るの。だから、甘えたくなった。ごめんね》
昔の出来事=母親からの暴力…か?
「樹里だから許すよ。」
俺はしばらく樹里を抱き締めていた