「樹里、ありがとう」
お父さんにお礼を言われあたしもボードにペンを走らせる
《どういたしまして。疲れたから部屋でちょっと休むね。大翔、ゆっくりしてって》
そう書いたボードを見せあたしは微笑んでから自分の部屋へと向かった
そして、一目散にベッドへ寝転がる
冬華との再会、嬉しかった
自分が自分で居られる人。
だけど、話せない自分にイライラした
でも、只でさえ話せないことで周りに迷惑掛けてるから。
これ以上、迷惑掛けたら“面倒くさい人だ”って思われる
だから、一生懸命笑顔を作って暮らしてた
それが、あたしなんだって言い聞かせながら…
お父さんと大翔、何話してるのかな?
気になりつつも薬を飲んで一寝入りすることにした
恋なんてしないって
決めたのに
キミを見ると
可愛らしくて
仕方ないんだ
***************
樹里のお父さんに言われ急きょお邪魔することとなった
急に決まったことで緊張する
家に着くまで樹里のお父さんの直樹さんといろんな話をした
「此処だよ」
着いたのは大きな二階建ての家。
「お兄ちゃん、どうぞ」
ニコッと微笑んだ樹音に言われ入る
樹里はと言うと荷物を置き直樹さんと俺にお茶を…
樹音にはオレンジジュースをくれた。
「樹里、ありがとう」
直樹さんの言葉を聞き樹里はペンを走らせていた
《どういたしまして。疲れたから部屋でちょっと休むね。大翔、ゆっくりしてって》
と書いたボードを見せるとニコッと笑って去っていった
「パパ、お姉ちゃん、キツそうだよ」
「そうだな。今はソッとしてあげよう」
話の内容についていけない
だけど、樹里のあの笑顔が作り笑いっていうのか?
「樹里は話せない分、人より余計にストレスを感じやすいらしくてな。帰って来たら部屋で寝てるんだ」
直樹さんの顔と声は真剣だった
「冬華ちゃんのおかげで少しは落ち着いてくれると良いんだけど…」
冬華と樹里の関係ってなんだ?
俺の表情で読み取ったのか直樹さんは続けた
「樹里が10歳までは此処に住んでたんだ。俺の仕事の関係で引っ越してまた戻って来た」
……そうだったのか。
「冬華ちゃんは樹里が唯一、心を開いてる大事な人さ」
だから、最初から仲が良かったんだな。
「樹里と冬華ちゃんは幼なじみさ。保育園からの友達でね。お互いが信頼してる。」
冬華に幼なじみが居たのは知ってたけど…
それが樹里だったんだ
「樹里が声が出なくなって励ましてくれたのも冬華ちゃん。あの子が居なければ今の樹里は存在しないよ」
「樹里はどうして声が出なくなってしまったんですか?」
無性に知りたかった。
樹里が話せない理由を。
知っておくべきだと悟った
「8歳の時に高熱が出てそれが長期間続いてね。原因不明で話せなくなってしまったんだ」
直樹さんは一呼吸して続けた
「皆が話せない樹里を嫌がるなか、冬華ちゃんだけが樹里と普通に接してくれたんだよ」
冬華も優しいとこあるじゃん
でも、それが樹里だから優しくしたんだろうな
「パパ、お姉ちゃんまた薬飲んでたよ」
いつの間にか居なくなってた樹音が戻って来た
「あれだけ変な時間帯に飲むなって言ってたのに。治まらないか…」
……薬ってなんだ?
「あっ、ごめんな。樹里はいくつかの薬を飲んでるんだ。いつも変な時間帯に飲むなって言ってるんだけど…」
樹里が薬を飲む理由があると思うけどな。
「冬華ちゃんは知ってるけど…。君にも言っておくね。その前に様子を見に行かなきゃだな」
直樹さんは立ち上がり歩き出した
「樹里は発作で震えを起こす時がある。薬は震えを抑えるものだ」
「お姉ちゃんが発作を起こすと誰にも止められないの」
樹音は悲しそうな顔をして話した
樹里の発作ってのはそんなに激しいものなのか?
「引っ越して来たばっかりだからまだ片付いてないけど…。此処が樹里の部屋だよ」
直樹さんは一つの部屋のドアの前で止まった
「俺が入っても良いんですか?」
“もちろん”と直樹さんは頷いた
入ってみるとベッドに横たわっている樹里の姿
「さっき、樹音が言った通り樹里が発作を起こすと誰にも止められない。だから、何かあったら大翔君、頼んで良いかい?」
冬華の大事な親友
直樹さんや樹音に話を聞き助けてあげたいと思った
「俺で良かったら冬華と一緒にサポートします」
「ありがとう。冬華ちゃんだけだと無理な部分もあると思うんだ」
……確かにそうだな。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんを宜しくね?」
「分かった。可愛い樹音の頼みは聞かなきゃだな」
樹音は頼もしい妹だ
「樹音にとっての樹里はどんな存在?」
俺は樹音を抱き上げながら聞いてみた
「お姉ちゃんは話せなくても樹音の大事なお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんは優しいから大好き。」
樹音は笑顔で答えた
「樹音ー?お散歩行くけど行く?」
「おばあちゃーん!!行くー!!パパ、行ってきて良い?」
直樹さんは頷いていた
樹音は散歩に行ってしまった
残された俺と直樹さん
「樹里はね、1人で頑張りすぎて倒れたりすることもある。話せない分、分かってもらえないこともあるしな。」
直樹さんは樹里の頭を撫でながら話していた
「樹音が他の同い年の子に比べて大人びて頼もしいのは樹里を支えてあげたいからなんだよ」
確かに小学1年生には見えないな。
「2人とも、イジメられててな…。樹里は“何で話せないんだ”って。樹音は“お前の姉ちゃん話せないんだろ?”って言われたって。」
そんなことがあったんだな
「樹音は“話せなくても大事なお姉ちゃんなんだ。”って叫んだらしいんだ」
「樹音はお姉ちゃん想いですね。」
小さいながらもちゃんと考えてる
「樹里が声が出なくなった理由、もう一つあるんだ。聞いてくれるか?」
……えっ?
「それ、俺が聞いて良いんですか?」
「君だから聞いて欲しいんだ。」
直樹さんの目は真剣だった
「冬華ちゃんと同じで樹里をサポートする気があるなら聞いて欲しい」
……樹里をサポート。
する気はある。
冬華に出来ないサポートは俺がやりたい
俺は力強く頷いた
「後から分かったことなんだが、樹里は母親に暴力を受けてたみたいで。それと高熱がきっかけで声が出なくなったみたいなんだ」
そういえば、樹里の母親見てないな。
「妻とは離婚したんだ。娘は俺が引き取った」
俺が言いたいことが分かったらしく教えてくれた
「樹里は俺らに心配掛けないように耐えてた。夫婦ゲンカばっかりだった。妻の怒りの矛先が樹里だった」
樹里は話せないから耐えるしかなかったんだな。
「仕事が忙しくて樹里の異変に気付いてあげれなかった。もう少し早く気付いてればこんなことには…」
直樹さんは未だに悔やんでるんだな
「今は樹里の病気を回復させるのが優先だから引っ越して来たんだよ」
そういうことだったんだな。