【更新中】キミの声、聞かせて

「まだ、写真撮ってるよね?」


《もちろん。写真撮るのが唯一の楽しみだから》

と書いたのを見せると冬華は微笑んだ


「じゃあ、久しぶりに今度ゆっくり見せて?」


あたしは笑顔で頷いた



冬華に見せるの、久しぶりで緊張するけど。


「やっぱり此処だったか」


冬華のお父さんの声がして振り向く


「まだまだ話したりないかもだけど今日は帰りな。樹里ちゃんも長旅で疲れてるだろうから。」


確かに疲れたかな。


でも、冬華に会えたら疲れなんて吹っ飛んだ


あたしはボードに書いたものを冬華に見せる


《冬華、また宜しく。仲良くしてね?》


「もちろん。また一緒に居られることが嬉しい。」


と抱きついて来た


それからは不安になりながらも新しい生活にウキウキしていた
----翌日


真新しい制服に身を通す


紺色のブレザーに赤チェックのスカート


前の学校がセーラー服だったからブレザーに憧れてたんだよね


「お姉ちゃん、可愛い」


「樹里、似合ってるな」


「さすが、あたしの孫ね」


樹音もお父さんもおばあちゃんも褒めすぎ


照れながらも笑顔でお辞儀をした


「気をつけて行ってくるんだよ」


お父さんに見送られて学校へ行く


学校までの道のりは覚えた


だけど、始業式に出る気になれなくて花の写真を撮ることにした


そのうち冬華があたしを探し出してくれて職員室に連れて行かれ…


教室で自己紹介をして先生の話を聞いていたらあっという間に終わった


そして、今は何故か冬華のお友達の相馬君と一緒。
冬華の強引なお願いにより一緒に帰ることとなり樹音が来るまで時間を潰すことになった


良く見るとカッコイイな。


冬華と同じで人気あるんだろうな。


公園で時間を潰してたら樹音とお父さんがやってきた


ちょっと話して…


《自己紹介したら?》


なんていうあたしの発言に緊張しながら自己紹介をする3人


そして、何故か大翔も一緒に帰ることとなった


“大翔”って呼ぶの慣れないな。


お父さんと大翔は意気投合したみたいで仲良く話していた


話せるって良いな。


あたしも話したい


でも、今は話したくない


矛盾してるよね


家に着き、お父さんと大翔にはお茶を。


樹音にはオレンジジュースを出した


あたしの分はいらないや。
「樹里、ありがとう」


お父さんにお礼を言われあたしもボードにペンを走らせる


《どういたしまして。疲れたから部屋でちょっと休むね。大翔、ゆっくりしてって》


そう書いたボードを見せあたしは微笑んでから自分の部屋へと向かった


そして、一目散にベッドへ寝転がる


冬華との再会、嬉しかった


自分が自分で居られる人。


だけど、話せない自分にイライラした


でも、只でさえ話せないことで周りに迷惑掛けてるから。


これ以上、迷惑掛けたら“面倒くさい人だ”って思われる


だから、一生懸命笑顔を作って暮らしてた


それが、あたしなんだって言い聞かせながら…


お父さんと大翔、何話してるのかな?


気になりつつも薬を飲んで一寝入りすることにした
恋なんてしないって

決めたのに

キミを見ると

可愛らしくて

仕方ないんだ


***************


樹里のお父さんに言われ急きょお邪魔することとなった


急に決まったことで緊張する


家に着くまで樹里のお父さんの直樹さんといろんな話をした


「此処だよ」


着いたのは大きな二階建ての家。


「お兄ちゃん、どうぞ」


ニコッと微笑んだ樹音に言われ入る


樹里はと言うと荷物を置き直樹さんと俺にお茶を…


樹音にはオレンジジュースをくれた。


「樹里、ありがとう」


直樹さんの言葉を聞き樹里はペンを走らせていた


《どういたしまして。疲れたから部屋でちょっと休むね。大翔、ゆっくりしてって》


と書いたボードを見せるとニコッと笑って去っていった
「パパ、お姉ちゃん、キツそうだよ」


「そうだな。今はソッとしてあげよう」


話の内容についていけない


だけど、樹里のあの笑顔が作り笑いっていうのか?


「樹里は話せない分、人より余計にストレスを感じやすいらしくてな。帰って来たら部屋で寝てるんだ」


直樹さんの顔と声は真剣だった


「冬華ちゃんのおかげで少しは落ち着いてくれると良いんだけど…」


冬華と樹里の関係ってなんだ?


俺の表情で読み取ったのか直樹さんは続けた


「樹里が10歳までは此処に住んでたんだ。俺の仕事の関係で引っ越してまた戻って来た」


……そうだったのか。


「冬華ちゃんは樹里が唯一、心を開いてる大事な人さ」


だから、最初から仲が良かったんだな。
「樹里と冬華ちゃんは幼なじみさ。保育園からの友達でね。お互いが信頼してる。」


冬華に幼なじみが居たのは知ってたけど…


それが樹里だったんだ


「樹里が声が出なくなって励ましてくれたのも冬華ちゃん。あの子が居なければ今の樹里は存在しないよ」


「樹里はどうして声が出なくなってしまったんですか?」


無性に知りたかった。


樹里が話せない理由を。


知っておくべきだと悟った


「8歳の時に高熱が出てそれが長期間続いてね。原因不明で話せなくなってしまったんだ」


直樹さんは一呼吸して続けた


「皆が話せない樹里を嫌がるなか、冬華ちゃんだけが樹里と普通に接してくれたんだよ」


冬華も優しいとこあるじゃん


でも、それが樹里だから優しくしたんだろうな
「パパ、お姉ちゃんまた薬飲んでたよ」


いつの間にか居なくなってた樹音が戻って来た


「あれだけ変な時間帯に飲むなって言ってたのに。治まらないか…」


……薬ってなんだ?


「あっ、ごめんな。樹里はいくつかの薬を飲んでるんだ。いつも変な時間帯に飲むなって言ってるんだけど…」


樹里が薬を飲む理由があると思うけどな。


「冬華ちゃんは知ってるけど…。君にも言っておくね。その前に様子を見に行かなきゃだな」


直樹さんは立ち上がり歩き出した


「樹里は発作で震えを起こす時がある。薬は震えを抑えるものだ」


「お姉ちゃんが発作を起こすと誰にも止められないの」


樹音は悲しそうな顔をして話した


樹里の発作ってのはそんなに激しいものなのか?
「引っ越して来たばっかりだからまだ片付いてないけど…。此処が樹里の部屋だよ」


直樹さんは一つの部屋のドアの前で止まった


「俺が入っても良いんですか?」


“もちろん”と直樹さんは頷いた


入ってみるとベッドに横たわっている樹里の姿


「さっき、樹音が言った通り樹里が発作を起こすと誰にも止められない。だから、何かあったら大翔君、頼んで良いかい?」


冬華の大事な親友


直樹さんや樹音に話を聞き助けてあげたいと思った


「俺で良かったら冬華と一緒にサポートします」

「ありがとう。冬華ちゃんだけだと無理な部分もあると思うんだ」


……確かにそうだな。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんを宜しくね?」


「分かった。可愛い樹音の頼みは聞かなきゃだな」


樹音は頼もしい妹だ