【更新中】キミの声、聞かせて

だから、内緒でお弁当を作ろうって思ったんだ


いつも、お世話になってるから。


「樹里ちゃん、そのままで良いからあたしの話、聞いてくれる?」


……なんだろ?


「大翔のこと、ちゃんと見てくれてありがとね」


ミラー越しに見える七瀬さんの微笑み


嬉しそうだけど、何処か寂しそうに見えた


「あの子、樹里ちゃんに出会うまで素っ気なかったの。」


確かに目が笑ってなかったな


「お父さん達の反対を押し切って一人暮らしをするって言ってね。あの子なりの葛藤があったから実家を出たいって」


そんなこと、相馬先生が言ってた


「あたしもこっちに居たし、お父さんも“七瀬が居るから”って許可をした」


だから、同じアパートに住んでるんだね
「だから、たまにね。様子を見たりしてるの。そしたら大翔が女の子を連れてるもんだからびっくりしたよ。」


それがあたしだったのかな?


「大翔があの部屋に女の子を連れて来たのは樹里ちゃんが初めてだよ?あんなに独占欲丸出しだったのもね。」


直接言われると恥ずかしい


今のあたし、顔が真っ赤だろうな


「ノートのやりとり、続いてるんだよね?」


信号で止まった七瀬さんはあたしの顔を見て聞いてきたので素直に頷いた


大翔とのノートのやり取り続いてるんだ


あたしが書くだけで終わるかなって思ってたけと、ちゃんと返事を返してくれた


それからは些細のないことだけど、やり取りをしている


ノートに自分の気持ちを書くだけで少しは楽になるんだ
“今日は疲れた”とか、“早く帰りたい”とか、そんな些細なこと


「大翔なりに樹里ちゃんを支えようとしてるからね。だから、頼っても良いんだよ?」


七瀬さんが言ってるってことは本当に頼っても大丈夫だよね?


「明日、楽しんでおいで。さっ、着いた。荷物置いて晩御飯の準備とお弁当の仕込みしようね」


七瀬さんが車を停めてから大翔の家へと向かう


「ただいま。」


「お帰り。遅かったな」


大翔がちゃんと出迎えてくれた


「樹里ちゃんと女子トークしてたの。一緒に晩御飯の準備するから大翔はテレビでも見てなさい」


気づけばもう、夕方だ


それから、慌ただしく晩御飯の準備とお弁当の仕込みをした


「あのね、お弁当2人一緒の方が荷物にならないからちょっと大きいの買ってきたよ」


至れり尽くせりで七瀬さん様々な1日だった
君と居ると

新たな発見がある

自分にしか

知らないことが

たくさん増えて嬉しい

君には笑って居て欲しい


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----翌日


カーテンから差し込む光の眩しさで目が覚める


寝ぼけ眼のまま近くに居る樹里を手探りで探すが、居ない


「何処行ったんだ、アイツ」


ゆっくりと起き上がり樹里を探す


するとリビングでテーブルにうつぶせになって寝ている樹里を発見


「こんなところで寝たら風邪引くぞ」


起きそうにないな、これは。


「あら大翔、おはよう。起きたのね」


振り向くと居るはずのない姉貴の姿。


「樹里ちゃん、さっきまで頑張ってたの。だから、寝かせてあげて」


頑張ってたってなんだ?
「大翔の為にってお弁当作ってくれたのよ?あたしも手伝ったの」


……そうだったのか。


お弁当の隣にはノートがある


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大翔へ

いつもお世話になってるから“ありがとう”の意味も込めてお弁当を作ってみました

大翔の口に合うかは分からないけど、一緒に食べようね?

動物園、楽しみだなぁ…。

写真、たくさん撮ってアルバム作る

その前に大翔のお母さんに会うのが緊張するよ


樹里より

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そう、俺の実家に近い動物園に行くことにした


そしたら、樹里の診察も兼ねて実家に泊まることになったんだ


荷物が多くて迷ったけど、近くまで出張に行くという直樹さんに乗せて貰うことになった
前日から準備はしてあるから後は出発するのみ


「樹里ちゃん、ベッドに運んだら?」


確かにこの体勢は辛そうだ


お姫様抱っこで樹里をベッドに連れて行く


「お母さんも樹里ちゃんに会えるの、楽しみにしてたわよ」


本当はまだ母さんに樹里を会わせたくないけと…


たまには実家にも顔出ししないと怒られる


「荷物置いてからデートには行きなさいよ」


「分かってる。弁当は公園で食べるさ」


姉貴の言うことは聞いておかないと怒られるからな


「樹里ちゃんの気分転換が目的なんだからね?怖がらせたらダメよ」


姉貴も樹里のこと心配してるんだ


「大丈夫。樹里のしたいようにさせる」


樹里はそれからしばらく気持ちよさそうに眠っていた
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しばらくして樹里は起きた。


「大翔、言うの忘れてた。樹里ちゃんの分の荷物、お母さんが用意してるらしいから必要最低限のもので良いわよ」


「もっと早く言えよな」


俺と樹里は急いで荷物を入れ替える


少なくなったおかげでだいぶ楽になった


「樹里ちゃん、楽しんでおいで。撮った写真、見せてね?」


姉貴の言葉に笑顔で頷く樹里


----トントン


直樹さんが来たみたいだな


「樹里、大翔くん。迎えに来たぞ」


「樹里ちゃんのお父さん、弟を宜しくお願いします」


「七瀬ちゃんだね。娘がいつもお世話になってます。ちゃんと送るのでご心配なく」


他愛のない話をしてから出発した
他愛のない話をしている間、樹里は眠っていた


良く寝るな、コイツ。


「樹里、そろそろ着くから起きろよー。」


直樹さんの声に反応して樹里はゆっくり目を開けた


「樹里、おはよ」


樹里はまだ眠たそうだが渋々起きていた


「樹里、せっかくだから楽しんで来なさい。大翔くん、娘を宜しく頼むよ。」


2人して頷くと直樹さんは車を発進させた


荷物を置くために家の前まで送ってもらった


「親父も母さんも仕事だし、荷物置いて公園で飯食べよう。腹減った」


樹里の作った弁当食べんの楽しみなんだ


一旦、俺の部屋に荷物を置き必要なものだけを持って近くの公園へ向かう


公園には誰も居なくて静かだった


そして、久しぶりの公園に懐かしさを覚えた。
《此処、良く来てたの?》


「1人になりたい時は良く来てたよ。」


思い出の地に樹里を連れてこれて良かった


新しく木の椅子と机が出来てる


「誰も居ないからあそこで食べよう」


樹里の手を引きベンチを目指す


《手洗ってくるね》


樹里は荷物を置くと手を洗いに行った


樹里が戻って来て弁当を広げる


中身を見て驚いた



「これ、樹里が作ったの?」


《七瀬さんにも手伝ってもらったけどね?》


……にしても、豪華だ


おにぎり、ハンバーグ、コロッケ、ポテトサラダ、野菜炒め、唐揚げ、ナポリタン、ウインナーなど。


ちゃんと果物まである


《勿体なかったから昨日の残り物も入れたの》


「いただきます」


樹里の不安そうな顔を見ながら食べ始めた