【更新中】キミの声、聞かせて

たくさん種類がある中の黒のお弁当箱だけど、何処か大翔っぽい気がする


「あたしで良ければ仕込み手伝うわよ」


支払いが済むと七瀬さんがそう言ってくれた


《そうですか?ありがとうございます》


料理上手な七瀬さんが居れば心配ないよね


「ついでに今日の夜ご飯の残り物も入れると良いよ。どっちみち多めに作るつもりでいたから。」


《何を作ろうとしてるんですか?》


「コロッケにしようと思うの」


《あたし、ハンバーグ作ろうとしてたんです》


七瀬さんがコロッケ作るならハンバーグはいらないかな?


「ハンバーグはね、大翔の好物なんだよ。だから、良かったら作ってあげて。樹里ちゃんが作ると喜ぶから」


じゃあ、お弁当箱に入るように小さめに作ろう
《このこと、大翔には内緒にしていてもらえますか?》


せっかくだから驚かせたい


「分かった。大翔は絶対喜ぶよ」


……そうだと良いな。


「車で来てたんだ。後ろに荷物乗せて隣に座って」


七瀬さん、運転出来たんだ


「免許持ってないって思ったでしょ?実家まで遠いし、此処は田舎だから車がないと生活出来ないしね」


確かにそうだよね。


「樹里ちゃんは隣に乗ってるだけで良いよ。疲れただろうしゆっくり休んでね」


七瀬さんの言葉に甘えることにした


退院出来たと言ってもまだすぐに疲れるんだよね


話せないし、外をみることにした


七瀬さんは安全運転だ


歩いて見る景色と車から見る景色は違うな…


新たな発見があったりする
「あっ、ちょっと寄るとこあるから乗ってて?すぐに戻って来るから」


それだけ告げると七瀬さんはもと来た道を戻り車を停めた


何処に行くんだろ…?


「そんな不安そうな顔しなくて大丈夫だから」


七瀬さんは財布と携帯を持って行ってしまった


……1人になっちゃった


怖いけど、車の中だから大丈夫だよね


「樹里ちゃん、待たせたね」


言葉通り七瀬さんはすぐに戻って来てくれた


可愛い紙袋を提げて…


聞きたかったけと、今は止めとく。


「さっ、大翔を待たせてるし帰ろうね」


と言って再び発進させた。


早く帰らなきゃ大翔に怒られるかな?


今日は大翔の家にお泊まりなんだ


動物園には大翔の家から一緒に行く
だから、内緒でお弁当を作ろうって思ったんだ


いつも、お世話になってるから。


「樹里ちゃん、そのままで良いからあたしの話、聞いてくれる?」


……なんだろ?


「大翔のこと、ちゃんと見てくれてありがとね」


ミラー越しに見える七瀬さんの微笑み


嬉しそうだけど、何処か寂しそうに見えた


「あの子、樹里ちゃんに出会うまで素っ気なかったの。」


確かに目が笑ってなかったな


「お父さん達の反対を押し切って一人暮らしをするって言ってね。あの子なりの葛藤があったから実家を出たいって」


そんなこと、相馬先生が言ってた


「あたしもこっちに居たし、お父さんも“七瀬が居るから”って許可をした」


だから、同じアパートに住んでるんだね
「だから、たまにね。様子を見たりしてるの。そしたら大翔が女の子を連れてるもんだからびっくりしたよ。」


それがあたしだったのかな?


「大翔があの部屋に女の子を連れて来たのは樹里ちゃんが初めてだよ?あんなに独占欲丸出しだったのもね。」


直接言われると恥ずかしい


今のあたし、顔が真っ赤だろうな


「ノートのやりとり、続いてるんだよね?」


信号で止まった七瀬さんはあたしの顔を見て聞いてきたので素直に頷いた


大翔とのノートのやり取り続いてるんだ


あたしが書くだけで終わるかなって思ってたけと、ちゃんと返事を返してくれた


それからは些細のないことだけど、やり取りをしている


ノートに自分の気持ちを書くだけで少しは楽になるんだ
“今日は疲れた”とか、“早く帰りたい”とか、そんな些細なこと


「大翔なりに樹里ちゃんを支えようとしてるからね。だから、頼っても良いんだよ?」


七瀬さんが言ってるってことは本当に頼っても大丈夫だよね?


「明日、楽しんでおいで。さっ、着いた。荷物置いて晩御飯の準備とお弁当の仕込みしようね」


七瀬さんが車を停めてから大翔の家へと向かう


「ただいま。」


「お帰り。遅かったな」


大翔がちゃんと出迎えてくれた


「樹里ちゃんと女子トークしてたの。一緒に晩御飯の準備するから大翔はテレビでも見てなさい」


気づけばもう、夕方だ


それから、慌ただしく晩御飯の準備とお弁当の仕込みをした


「あのね、お弁当2人一緒の方が荷物にならないからちょっと大きいの買ってきたよ」


至れり尽くせりで七瀬さん様々な1日だった
君と居ると

新たな発見がある

自分にしか

知らないことが

たくさん増えて嬉しい

君には笑って居て欲しい


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----翌日


カーテンから差し込む光の眩しさで目が覚める


寝ぼけ眼のまま近くに居る樹里を手探りで探すが、居ない


「何処行ったんだ、アイツ」


ゆっくりと起き上がり樹里を探す


するとリビングでテーブルにうつぶせになって寝ている樹里を発見


「こんなところで寝たら風邪引くぞ」


起きそうにないな、これは。


「あら大翔、おはよう。起きたのね」


振り向くと居るはずのない姉貴の姿。


「樹里ちゃん、さっきまで頑張ってたの。だから、寝かせてあげて」


頑張ってたってなんだ?
「大翔の為にってお弁当作ってくれたのよ?あたしも手伝ったの」


……そうだったのか。


お弁当の隣にはノートがある


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大翔へ

いつもお世話になってるから“ありがとう”の意味も込めてお弁当を作ってみました

大翔の口に合うかは分からないけど、一緒に食べようね?

動物園、楽しみだなぁ…。

写真、たくさん撮ってアルバム作る

その前に大翔のお母さんに会うのが緊張するよ


樹里より

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そう、俺の実家に近い動物園に行くことにした


そしたら、樹里の診察も兼ねて実家に泊まることになったんだ


荷物が多くて迷ったけど、近くまで出張に行くという直樹さんに乗せて貰うことになった
前日から準備はしてあるから後は出発するのみ


「樹里ちゃん、ベッドに運んだら?」


確かにこの体勢は辛そうだ


お姫様抱っこで樹里をベッドに連れて行く


「お母さんも樹里ちゃんに会えるの、楽しみにしてたわよ」


本当はまだ母さんに樹里を会わせたくないけと…


たまには実家にも顔出ししないと怒られる


「荷物置いてからデートには行きなさいよ」


「分かってる。弁当は公園で食べるさ」


姉貴の言うことは聞いておかないと怒られるからな


「樹里ちゃんの気分転換が目的なんだからね?怖がらせたらダメよ」


姉貴も樹里のこと心配してるんだ


「大丈夫。樹里のしたいようにさせる」


樹里はそれからしばらく気持ちよさそうに眠っていた