「とりあえず、荷物運ぼうか。」
「樹里の部屋は2階の奥ね」
運べるだけの自分の荷物を持ちおばあちゃんが教えてくれた2階の部屋へと向かう
ダンボールに“樹里”と書かれたのが見えたからあたしの部屋は此処か。
まだ何もない殺風景な部屋
可愛くしなきゃだね。
「樹里、荷物置いたら学校に挨拶行くぞ」
あっ、学校に行くこと忘れてた
行きたくない。
とりあえず、時間はあるしゆっくり片付けしよ
あたしは準備をしてお父さんのところへ行く
「準備、出来たか。行くぞ」
高校までは歩いて行ける距離
お父さんと歩いて学校へ向かう
「そんなに緊張しなくても大丈夫。冬華ちゃんも樹里を待ってるよ」
冬華の名前を聞いて安心した
何も話すことなく学校へ着いた
「おー!!直樹。久しぶりー!!」
相変わらずテンション高いな、冬華のお父さん
「忠彦、久しぶりだな。樹里のこと宜しく頼むよ」
春川忠彦(ハルカワタダヒコ)さん
冬華のお父さんで春川学園の校長先生
理事長は冬華のおじいちゃん
「樹里ちゃん、久しぶりだね。可愛くなって。」
あたしはボードに言いたいことを書いた
《お久しぶりです。宜しくお願いします。あたしなんて可愛くないですよ?》
お父さんと冬華のお父さんは苦笑いしていた
「編入試験、受けなくて良いから。前の学校から成績関係の書類送ってもらった。頭良いみたいだし、春川学園に通って良いよ」
なんて呆気なく言われたから力が抜けた
「冬華、居るけど…。会っていくかい?」
冬華が居ると分かって笑顔になったあたし
冬華に会いたくて笑顔で頷いた
「じゃあ、これ持ってて。」
渡されたのは綺麗な音色の鈴
《あたし、猫じゃないです。》
と咄嗟に書いたのがこれ。
「冬華に合図が出来るだろ?冬華にはちゃんと説明してある。だから、行きなさい」
そういう理由で鈴をくれたんだね
「冬華は図書室に居るよ。図書室はこの階の奥ね。すぐ分かるから大丈夫」
あたしは忠彦さんにお辞儀をして冬華の居る場所へと向かった
“チリンチリン”という鈴の音は静かな校内には結構響く
でも、この音。安心するな…
田舎にあるのにやけに広いこの学園
道に迷わないように冬華が居る場所へと向かった
あっ、冬華みっけ
----チリンチリン
話せない代わりに忠彦さんに渡された鈴を鳴らして来たことを知らせる
「えっ、あっ…。樹里なのー?」
あたしの存在に気付き近寄って来て一目散に抱きついて来た
「会いたかった。」
会うの本当に久しぶりだもんね
「ちょっと片付けるから待ってて」
冬華は素早く片付けてあたしのところに戻って来た
「樹里、可愛くなった」
そんなことないと首を振る
冬華の方が可愛い
お人形さんみたい
学校でもモテるんだろうな。
「ゆっくり出来る場所に行こう」
冬華はあたしの手を引き何処かへ向かった
「ここ、あたしのお気に入りの場所」
冬華が連れてきたのはお花がたくさん咲いた場所
「あたししか知らない場所なんだ。日向ぼっこも出来るし雨に濡れても大丈夫な場所」
冬華は此処に頻繁に来てたことが見て取れる
「樹里も何かあったら此処に来て良いよ」
と言いながらベンチに腰掛ける
「樹里も隣においで。そしたらお話し出来るでしょ?」
冬華はあたしがボードを使って筆談することを知っている
だから、言ってくれてるんだ
《冬華の秘密の場所、あたし知っても良いの?》
「もちろん。あたしは樹里だから知って欲しい。それに此処、たくさん写真撮れるよ。」
話せないあたしが唯一、自分らしく居られるのは写真を撮ってるとき。
話せなくなって引きこもりだったあたしを救ってくれたのがお父さんが買ってくれたカメラだったんだ
「まだ、写真撮ってるよね?」
《もちろん。写真撮るのが唯一の楽しみだから》
と書いたのを見せると冬華は微笑んだ
「じゃあ、久しぶりに今度ゆっくり見せて?」
あたしは笑顔で頷いた
冬華に見せるの、久しぶりで緊張するけど。
「やっぱり此処だったか」
冬華のお父さんの声がして振り向く
「まだまだ話したりないかもだけど今日は帰りな。樹里ちゃんも長旅で疲れてるだろうから。」
確かに疲れたかな。
でも、冬華に会えたら疲れなんて吹っ飛んだ
あたしはボードに書いたものを冬華に見せる
《冬華、また宜しく。仲良くしてね?》
「もちろん。また一緒に居られることが嬉しい。」
と抱きついて来た
それからは不安になりながらも新しい生活にウキウキしていた
----翌日
真新しい制服に身を通す
紺色のブレザーに赤チェックのスカート
前の学校がセーラー服だったからブレザーに憧れてたんだよね
「お姉ちゃん、可愛い」
「樹里、似合ってるな」
「さすが、あたしの孫ね」
樹音もお父さんもおばあちゃんも褒めすぎ
照れながらも笑顔でお辞儀をした
「気をつけて行ってくるんだよ」
お父さんに見送られて学校へ行く
学校までの道のりは覚えた
だけど、始業式に出る気になれなくて花の写真を撮ることにした
そのうち冬華があたしを探し出してくれて職員室に連れて行かれ…
教室で自己紹介をして先生の話を聞いていたらあっという間に終わった
そして、今は何故か冬華のお友達の相馬君と一緒。
冬華の強引なお願いにより一緒に帰ることとなり樹音が来るまで時間を潰すことになった
良く見るとカッコイイな。
冬華と同じで人気あるんだろうな。
公園で時間を潰してたら樹音とお父さんがやってきた
ちょっと話して…
《自己紹介したら?》
なんていうあたしの発言に緊張しながら自己紹介をする3人
そして、何故か大翔も一緒に帰ることとなった
“大翔”って呼ぶの慣れないな。
お父さんと大翔は意気投合したみたいで仲良く話していた
話せるって良いな。
あたしも話したい
でも、今は話したくない
矛盾してるよね
家に着き、お父さんと大翔にはお茶を。
樹音にはオレンジジュースを出した
あたしの分はいらないや。
「樹里、ありがとう」
お父さんにお礼を言われあたしもボードにペンを走らせる
《どういたしまして。疲れたから部屋でちょっと休むね。大翔、ゆっくりしてって》
そう書いたボードを見せあたしは微笑んでから自分の部屋へと向かった
そして、一目散にベッドへ寝転がる
冬華との再会、嬉しかった
自分が自分で居られる人。
だけど、話せない自分にイライラした
でも、只でさえ話せないことで周りに迷惑掛けてるから。
これ以上、迷惑掛けたら“面倒くさい人だ”って思われる
だから、一生懸命笑顔を作って暮らしてた
それが、あたしなんだって言い聞かせながら…
お父さんと大翔、何話してるのかな?
気になりつつも薬を飲んで一寝入りすることにした