「悪いこと、したかな?」
「樹里がね、泣きそうな顔するのは不安だからだよ。自分だけが話せないから泣きそうなんだと思う」
“樹音が悪いわけじゃないから大丈夫”と教えてあげた
「樹音は樹音に出来ることをすれば良い」
小学1年生には難しいかな?
「お姉ちゃんが話せなくて…。樹音も悲しい。もっとたくさんお話したい」
樹音も我慢してる
「樹音、泣いて良いよ。我慢しなくて良い」
樹音は今まで我慢していた分が溢れ出した
樹里が話せないことは小学1年生の樹音にとって負担が大きいはず
誰にも言えなくて我慢して…
心配掛けまいと大人びた行動を取っていたんだと思う
だけど、やっぱりまだ小学1年生なんだ
樹音には分からないことだってたくさんある
「樹音が頑張ろうとしなくて良い。樹音に出来ることをすれば樹里も喜ぶから」
樹音はしばらく泣いていた
「お兄ちゃん。ありがと」
「落ち着いたんだな。泣きたい時は泣いて良い。樹里に心配掛けたくなかったら俺のとこに来て泣けば良い」
樹音だって泣くことは必要だと思うから。
「お兄ちゃんは優しいね」
「それ、樹里にも言われたぞ。樹里だって樹音に優しいだろ?」
「うん!!お姉ちゃん、大好き」
樹里のことを“大好き”と言う樹音は笑顔だった
本当に姉思いなんだな
「お姉ちゃんは樹音のお姉ちゃんだから…」
俺は頷きながら話を聞いた
~♪~♪~♪~
親父からだ
「お兄ちゃん、出て良いよ」
樹音を膝に乗せたまま電話に出る
「もしもし」
「あっ、大翔。今、家か?」
「あぁ、どうした?」
「樹里ちゃんの診察終わったんだ。今から来れるか?」
……今から?
また、急な話だな
「樹里ちゃんのお父さんも居るから」
とりあえず、来いってことだな。
「分かった。樹音連れて行くよ」
それだけ告げて電話を切った
「お兄ちゃん…?」
「樹音、今から樹里のとこに行くぞ。病院まで距離あるけど大丈夫か?」
「うん。歩く」
歩けなかったら俺が背負えば良いしな
樹音と2人で病院に向かう
その間、樹里達家族のことを聞いた
樹里の話をする樹音は本当に楽しそう
「樹音、背負ってやる」
樹音は嬉しそうに俺に背負われた
そして、病院を目指した
----トントン
「どうぞ」
親父の声がして中に入る
「大翔くん、樹音の面倒見てくれてありがとう」
「いいえ。楽しかったです」
とりあえず、背負っていた樹音を降ろす
「樹里、大丈夫か?」
《まだ、痛い》
「無理はするなよ」
樹里は頷いた
「樹里、今日は1人で大丈夫?」
《うん。1日くらいは耐えられる。相馬先生のおかげ》
親父、何したんだ?
「じゃあ、今日は大翔の家に泊まろう」
「はっ?七瀬のとこじゃねーの?」
「七瀬には“大翔の家に泊まる”って言ってあるから。」
1人でゆっくり出来るって思ったのに。
「分かったよ。買い物付き合え。」
冷蔵庫に何も入ってない
《大翔、また来てくれる?》
樹里の頼みは断れなくて頷いた自分がいた
樹里の部屋を出て親父と買い出しに向かう
「お前も樹里ちゃんには甘いみたいだな」
親父には見抜かれてる
「樹里のこと、放っておけないから」
こんな風に思うのは樹里が初めてだ
「お前、変わったな」
「完全に樹里のおかげだよ」
これは断言出来る
「適当に作るけど、チャーハンで良い?」
「あぁ、大翔が作ってくれるなら何でも良いよ」
親父に食事を作るなんて久しぶりだ
ショッピングモールで食材を調達し家に帰宅した
「なんかお前っぽいな」
部屋に入った親父の一言
「シンプルなのが好きだしな。」
白と黒で統一された部屋
「お前、女でも出来たか?」
「出来てない」
樹里しか興味ないから。
「前に亮介と琴音が遊びに来たから食器とか荷物が増えた」
「そういえば、2人ともそんなこと言ってたな」
「まっ、良いや。さっさと作るけど、風呂入ってくれば?」
ちゃんと此処に泊まれるように荷物準備してるみたいだから
「先、入って良いのか?」
「良いよ。たまにはゆっくり湯船に浸かると良いさ」
只でさえ仕事で忙しい人だから。
「お先に入るから。お前の手料理楽しみにしてる」
風呂場まで案内して俺は夕飯を作ることにした
家ではなるべく自炊するようにしている
1回、作ってみたら楽しくなったんだ。
今度は樹里の好きなものでも作ってあげよう
なんて考えてるうちにチャーハンを仕上げた
後は、買ってきた惣菜と味噌汁とサラダを並べた
「おっ、美味しそうじゃないか」
タオルで髪の毛を乾かしながら親父が戻ってきた
「おっ、味噌汁だ」
この人、何を食べる時でも味噌汁がないとダメ
1日3食、必ず味噌汁が必要
「しかも、具材は豆腐とワカメ」
こんなに嬉しそうな親父、久しぶりに見た
子供に戻ったみたいだ
「良く、俺の好きな味噌汁の具材を覚えてたな」
「そりゃあ、家族ですから。」
たまには親父の喜ぶ顔がみたい
「いただきます」
味噌汁を一口
味に自信はないけど、親父の反応が気になって固まった
「美味い!!」
「良かった」
それを聞いて一安心
他愛のない話をしながら夕飯を済ませ“食器は洗っておく”と言ってくれた親父に甘えてお風呂に入った
リビングに戻ると親父がテーブルに書類を広げていた
「おっ、大翔。あがったか」
「此処に居る時くらいゆっくりしたら良いのに」
「これは樹里ちゃんの書類だよ。これしか持って来てないしな」
樹里の書類か…。結構あるな
親父は一旦、書類を片付けた
「お茶、飲む?」
「飲む。冷たいのが良い」
キッチンの冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してコップに注ぐ
「はい」
「ありがとう。ちょっと座れ」
親父に言われ向かい合わせに座る
「なんか、話しでもあんの?」
親父の顔つきからして真剣?
「もう一度聞くぞ。お前、女でも出来ただろ?」
「だから、出来てないって。」
「嘘付け。俺には分かるし、七瀬に聞いた」
姉貴の存在、忘れてた
「七瀬が“大翔に可愛い彼女が出来た”って言ってたぞ」
「七瀬が見たのは樹里だよ」
「樹里ちゃん?」
親父は不思議そうな顔をした
「樹里がこっちに来てから一緒に居ること多いから」
「大翔の彼女って樹里ちゃんか?」
この人には隠せない
「俺が樹里のことを一方的に好きなだけだよ。」
親父は頷きながら聞いていた
「告白はした。だけど、樹里の気持ちは分からない。樹里のことは好き」
「とうとうお前も恋したか。」
「俺が恋して悪いか?」
親父は信じられない顔をしていた
「嬉しいけどな。恋してくれて」
「樹里に恋したこと、後悔してない。ただ好きになった人が話せなかっただけ」
俺はそう思ってる