「樹里、そんな不安そうな顔するなよ。姉貴の友達でもあるし何かあったら頼って良いよ」
“姉貴の友達”と聞いて安心した表情を浮かべた
「七瀬のこと、知ってるの?」
花蓮さんの言葉に頷く樹里
「姉貴のお気に入りですよ。樹里、話せないので分かってあげて下さい。耳は聞こえてるので」
「そっか。あたしも樹里ちゃんのこと知りたいからゆっくり話しましょうね」
花蓮さんは樹里を見て微笑んだ
「親父も来そうなこと言ってるので。」
「その件なら知ってるわ。あたし、貴方のお父さんが居る病院で働いてるし。」
もう、連絡は行ったってことか。
「看護師さん、お姉ちゃんを宜しくお願いします」
樹音も律儀だな
小学1年生には思えない
「この子、誰なの?」
「樹里の妹です。樹音、看護師さんに名前教えてあげな」
樹音は花蓮さんの前で…
「寺田樹音です。小学1年生です。宜しくお願いします」
と自己紹介していた
「樹里ちゃんの妹?可愛い!!」
そういえば、花蓮さん子供好きだったな
「あたし、一人っ子だから妹か弟が欲しかった」
樹音の頭を撫でながら話す
「花蓮さん、樹音で遊ぶのは良いけど、仕事は?」
世間話してて忘れてた
「そうだった!!樹里ちゃん、体温計ろ」
一気に仕事モードになったな
「37度4分ね。微熱かな?」
「37度を越すと樹里は体調が良くないんです。平熱が35度台だから」
と直樹さんが教えてくれた
じゃあ、今は相当、具合悪いってとこか。
樹里を見ると先ほどより苦しそうな表情をしていた
「このまま、樹里を1人にするのは心配だな」
直樹さんはボソッと呟いた
「花蓮さん、付き添えない直樹さんの代わりに俺が付き添ってても大丈夫ですか?」
「大翔が?大丈夫だけど…」
花蓮さんは驚いた表情を見せた
「直樹さんは樹音のこともあるし、明日は親父が来るって言ってるので居た方が良いかと…」
俺自身も樹里のこと心配だしな。
「大翔くん、本当に良いのかい?」
「はい。家に帰っても1人ですし学校での状況が状況だったので俺が樹里の傍に居ます」
明日は学校が休みだしちょうど良い
樹里も誰か居た方が安心するだろうしな
さすがに樹里を1人には出来ない
「済まないね。助かるよ。ありがとう」
しばらくして直樹と樹音は帰って行った
「樹里、もう大丈夫」
《ありがとう》
文字を書くことの出来ない樹里は口パクでそう言っていた
「俺、此処に居るから」
濡れたタオルを額に乗せながら話す
「申し訳ないとか思うなよ。樹里のことが心配だ。」
多分、この状態で家に帰ったら心配でソワソワしっぱなしだから
「俺がね、樹里の存在を必要としてるの。話せなくたって樹里は樹里だ」
その言葉を聞いた樹里は泣いていた
「今は泣け。辛かった分まで俺が受け止めるから」
受け止めることも俺の役目
思った以上に俺には樹里の存在が必要だ
周りがなんと言おうと俺自身が樹里を必要としてるから傍に居る
……ただ、それだけのこと
話を聞いてくれる人が
居るだけで…
凄く安心するし
気持ちも楽になるの
***************
目が覚めたら病院にいた
目が覚めて大翔が居てくれたことに安心したし嬉しかった
でも、やっぱりあの時の出来事は蘇るわけで…
体中、痛いし泣きそう
それに非常に具合悪い
体温計ったら熱はあるしね
お父さんと樹音はしばらく話してから帰って行った
“また来る”と言い残して…
この部屋にはあたしと大翔だけ。
「樹里、ごめんな」
……どうして大翔が謝るの?
そんなあたしの表情を見抜いたのか大翔は“気づいてあげれなかった”って…
だけどね、あたしは大翔が来てくれただけで嬉しいんだよ。
「今は泣け。辛かった分まで俺が受け止めるから」
いつも優しい大翔に助けられる
そんな大翔の優しさが嬉しくて思う存分泣いた
大翔は文句1つ言わないで泣かせてくれた
今までは心配掛けたくなくて泣けなかったのに…
この人の前だと弱い自分になる
「落ち着いたか?」
しばらくして大翔が声を掛けてくれた
あたしが泣いてる間、ずっと傍に居てくれて…
頭を撫でてくれた
それがまた嬉しくて、安心出来たんだ
「本当は抱きしめてあげたいけど…。それは樹里が元気になってからな」
あたしだって大翔にギュッとして欲しい
唯一、甘えられるのが大翔だけだから。
「今日はゆっくり休もうな。どうするかは明日考えれば良い」
大翔が居ることに安心して再び眠ることが出来た
----翌日
目が覚めると大翔の姿はなかった
何処に行ったのかな…?
学校でのことがフラッシュバックしてきて一気に不安になった
震えだって止まらない
「あっ、樹里。起きた?」
ビニール袋を提げた大翔が入って来た
大翔、居たんだ。
……良かった
「居なくなってごめんな。直樹さんが朝食を届けてくれたんだ」
だから、居なかったんだね
理由が分かったらホッとして震えも落ち着いてきた
「体調は…?」
昨日より全然マシだ
だから、ゆっくりと起き上がった
「起き上がれるなら体調が良いんだな」
あたしは小さく頷いた
《いっぱい迷惑掛けてごめんなさい。助けに来てくれてありがとう》
ずっとお礼が言いたかったんだ
「俺も遅くなってごめん。もっと早く気付けば良かった」
《ううん。来てくれて嬉しかった》
大翔が居なかったらあたしはずっとされるがままだったから
「樹里、ゆっくりで良い。無理して笑う必要ないから。」
その言葉を聞いて嬉しくなった
「樹里の気持ちが落ち着いてから話してな?」
話さないと前には進めないよね
「すぐにとは言わない。樹里が話してくれるまで待ってる」
大翔は優しすぎるよ…
それからは花蓮さんが運んでくれた朝食を食べた
半分くらいしか食べれなかったけど…
ゆっくり食べていけば良いよね
することなくて暇だなぁ
「欲しいものあったら言えよ?買ってくるから」
《良いよ。大翔に迷惑掛けちゃうから》
これ以上、迷惑掛けてられない
「俺は仮にも樹里の彼氏だろ?迷惑掛けて良いよ。出来ることはするから」
大翔はあたしの頭を撫でながら微笑んでくれた
こんな風に言ってくれる人、大翔が初めて。
「一方的にだけどさ、俺は樹里が好きなの。だから、樹里の役に立ちたいと思う」
----ドキッ…
こんな時に好きって言わないで
自分の気持ちが分からなくなる
だけど、嬉しいと思ってる自分が居る
「樹里ちゃん、顔が真っ赤になってるけど?」
ニヤッと微笑みながらあたしをからかう大翔
《意地悪しないで!!恥ずかしいよ。》
「だって、樹里の反応可愛いし。新鮮だから意地悪したくなる」
とサラッと言いのけた大翔
あたしの顔がますます真っ赤になったのは言うまでもない