【更新中】キミの声、聞かせて

《お父さん、お仕事は?》


「今日は休み。明日は樹音の入学式で休みもらってる。とりあえず、帰ろう」


樹里のお父さん来たし俺も帰るかな。


「じゃあ、俺はこれで」


一礼をして去ろうとしたけど…


引っ張られた気がした


「お兄ちゃん、帰るの?」


俺は小さく頷いた


「大翔君、急で悪いんだけど時間あるかい?」


「はい。まぁ…」


家に帰ってもすることないし。


「じゃあ、家においで」


直樹さんの顔をみた後、樹里の顔を見た


《遠慮は良いからね。うちで良かったらおいで?多い方が楽しいし》


と書いてあった


「俺が行っても良いのか?」


樹里は笑顔で頷いた


その笑顔が可愛くて…


一瞬にして心を奪われた気がした
久しぶりに

再会した君は

変わってなくて

安心した

***************


「樹里ー!!準備出来たかい?」


お父さんが叫びながら入ってきた


今日は引っ越しの日


慣れ親しんだこの都会の街からおばあちゃん達が住んでいる田舎の家へと引っ越す


幼い頃に住んでた家へと戻るんだ


《準備出来たよ。お父さんも樹音も忘れ物ないようにね?》


「大丈夫。何回もチェックしたし。早めに親父のところに荷物も送ったし、いらない物は処分しただろ?」


《それはそうだけど…。》


と書いて詰まった


「冬華ちゃんも居るんだし、ゆっくり焦らず回復しような」


あたしは小さく頷いた


あたしは幼い頃に出した高熱が影響して話せなくなってしまった
だから、ホワイトボードが必需品


これがないと会話が出来ない


周りが言ったことは全て聞こえてる


ただ、あたし自身が話せないだけ。


「さっ、樹音は車に乗ったし俺らも行こう」


最終的チェックをして車に乗り込む


おばあちゃんの家までは車で2時間ほど。


田畑に囲まれた緑豊かな場所だ


「お姉ちゃん、忘れ物ない?大丈夫?」


あたしは小さく頷いた


妹の樹音。4月から小学生


話すことの出来ないあたしは寺田樹里。


高校2年生になる


今日、この家を離れおばあちゃん達との共同生活が始まる


楽しみもあり不安もある


お父さんの仕事の都合で引っ越すことになったあたし達。


それで、昔住んでたおばあちゃん達の家に戻ることとなった
お父さんが車を運転して2時間


都会の景色が緑豊かな田舎の景色に変わった


久しぶりだなぁ。


お父さんの仕事が忙しくてなかなか遊びにいけなかったから


「樹里、荷物置いてから学校に行くぞ」


あたしはミラー越しに頷いた


……緊張する。


“学校に行くぞ”と言われて落ち着かないあたし。


「ほら、着いた」


大きな二階建ての家の前に着くとお父さんはそう呟いた


「あっ、おばあちゃぁん」


樹音がおばあちゃんを見つけて叫ぶ


「来たか。お帰り。」


《おばあちゃん、今日からお世話になります》


と書いたホワイトボードを見せる


「樹里も元気そうね。ゆっくり休みなさい。冬華ちゃん、貴女が来るの楽しみにしてたわよ」


冬華に会いたいな。
「とりあえず、荷物運ぼうか。」


「樹里の部屋は2階の奥ね」


運べるだけの自分の荷物を持ちおばあちゃんが教えてくれた2階の部屋へと向かう


ダンボールに“樹里”と書かれたのが見えたからあたしの部屋は此処か。


まだ何もない殺風景な部屋


可愛くしなきゃだね。


「樹里、荷物置いたら学校に挨拶行くぞ」


あっ、学校に行くこと忘れてた


行きたくない。


とりあえず、時間はあるしゆっくり片付けしよ


あたしは準備をしてお父さんのところへ行く


「準備、出来たか。行くぞ」


高校までは歩いて行ける距離


お父さんと歩いて学校へ向かう


「そんなに緊張しなくても大丈夫。冬華ちゃんも樹里を待ってるよ」


冬華の名前を聞いて安心した
何も話すことなく学校へ着いた


「おー!!直樹。久しぶりー!!」


相変わらずテンション高いな、冬華のお父さん


「忠彦、久しぶりだな。樹里のこと宜しく頼むよ」


春川忠彦(ハルカワタダヒコ)さん


冬華のお父さんで春川学園の校長先生


理事長は冬華のおじいちゃん


「樹里ちゃん、久しぶりだね。可愛くなって。」


あたしはボードに言いたいことを書いた


《お久しぶりです。宜しくお願いします。あたしなんて可愛くないですよ?》


お父さんと冬華のお父さんは苦笑いしていた


「編入試験、受けなくて良いから。前の学校から成績関係の書類送ってもらった。頭良いみたいだし、春川学園に通って良いよ」


なんて呆気なく言われたから力が抜けた
「冬華、居るけど…。会っていくかい?」


冬華が居ると分かって笑顔になったあたし


冬華に会いたくて笑顔で頷いた


「じゃあ、これ持ってて。」


渡されたのは綺麗な音色の鈴


《あたし、猫じゃないです。》


と咄嗟に書いたのがこれ。


「冬華に合図が出来るだろ?冬華にはちゃんと説明してある。だから、行きなさい」


そういう理由で鈴をくれたんだね


「冬華は図書室に居るよ。図書室はこの階の奥ね。すぐ分かるから大丈夫」


あたしは忠彦さんにお辞儀をして冬華の居る場所へと向かった


“チリンチリン”という鈴の音は静かな校内には結構響く


でも、この音。安心するな…


田舎にあるのにやけに広いこの学園


道に迷わないように冬華が居る場所へと向かった
あっ、冬華みっけ


----チリンチリン


話せない代わりに忠彦さんに渡された鈴を鳴らして来たことを知らせる


「えっ、あっ…。樹里なのー?」


あたしの存在に気付き近寄って来て一目散に抱きついて来た


「会いたかった。」


会うの本当に久しぶりだもんね


「ちょっと片付けるから待ってて」


冬華は素早く片付けてあたしのところに戻って来た


「樹里、可愛くなった」


そんなことないと首を振る


冬華の方が可愛い


お人形さんみたい


学校でもモテるんだろうな。


「ゆっくり出来る場所に行こう」


冬華はあたしの手を引き何処かへ向かった


「ここ、あたしのお気に入りの場所」


冬華が連れてきたのはお花がたくさん咲いた場所
「あたししか知らない場所なんだ。日向ぼっこも出来るし雨に濡れても大丈夫な場所」


冬華は此処に頻繁に来てたことが見て取れる


「樹里も何かあったら此処に来て良いよ」


と言いながらベンチに腰掛ける


「樹里も隣においで。そしたらお話し出来るでしょ?」


冬華はあたしがボードを使って筆談することを知っている


だから、言ってくれてるんだ


《冬華の秘密の場所、あたし知っても良いの?》


「もちろん。あたしは樹里だから知って欲しい。それに此処、たくさん写真撮れるよ。」


話せないあたしが唯一、自分らしく居られるのは写真を撮ってるとき。


話せなくなって引きこもりだったあたしを救ってくれたのがお父さんが買ってくれたカメラだったんだ