「別れれば良いのにね」
「大翔には寧々がお似合いだよ」
「寺田さん、その内大翔に捨てられるんじゃないの?」
「話せないから捨てられるよ」
……分かってるから言わないで。
周りの女子達が言った言葉がこだまする
“話せないから利用しているだけ”
“あんた地味だよね”
“ほんとは話せるんじゃないの?”
とかは小さい頃から言われ続けた
やっぱり何処に居ても言われ続けるんだ
…はぁ…はぁ…はぁ
----苦しい、助けて…
こういう時、話せたら叫べるのに
「樹里、大丈夫か?」
異変に気付いた大翔が声を掛けてくれる
耐えられなくて大翔の制服の裾を引っ張った
こんなに苦しいのは久しぶりだ
「ほらほら、また利用してる」
苦しくなるから言わないで。
……苦しいよぉ。
「なぁ、お前ら…」
今まで黙っていた大翔が口を開いた
「大翔、なんでそんな子の相手するの?」
「いつ黙るか待ってたんだけど。言わせておけば気が済むまで言うんだな。樹里が苦しがってるの分かんねーの?」
大翔はあたしを抱き締めてさすってくれる
「ゆっくり呼吸して落ち着け」
しばらくすると呼吸も落ち着いてきた
「樹里と別れることはない。俺が樹里の傍に居たいから。何も知らないのに樹里の悪口言うんじゃねーよ」
「寺田さん、話せないし可愛くないじゃない」
ギャルっぽい女の子は言いたい放題
「可愛くない?樹里は可愛いよ。文句をいうお前らは可愛くないね」
大翔はあたしの手を引き教室を出た
「大丈夫か?歩ける?」
本当は歩くのもツラい
また呼吸が荒くなって来た
耐えられなくてその場に座り込む
「歩くのキツい?」
あたしは正直に頷いた
ここで強がってても意味ないから
「あれ、樹里と大翔。帰ったんじゃなかったの?」
「冬華、良かった。荷物持ってくれ。詳しいことは話すから」
冬華は訳分からない状態
「俺んちに帰るぞ」
大翔は冬華に荷物を預けるとあたしを背負ってくれた
大きな背中が安心出来る
そういえば、お父さんに背負われたのはいつだっけ?
樹音が居るから甘えられなくて…
ずっと我慢してた
大翔の背中は安心出来る
大翔は冬華に事情を説明してくれてるみたい
大翔に背負われてることが心地良くていつの間にか眠っていた
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……ん?
ゆっくりと目を開ける
「あっ、樹里。起きた?」
大翔の声がして態勢を変える
「俺んちに連れて帰ろうとしたけど、樹里んちに帰ってきた」
大翔はあたしの頭を撫でてくれる
落ち着いて良いはずなのにあの出来事がフラッシュバックしてくる
慣れっこのはずなのにやっぱり怖い
大翔にお礼言いたいけど…。
「今は無理に書かなくて良いよ」
あたしがしようとしたこと分かってたみたい
「樹里、落ち着いたか?」
お父さんの声がして頷いた
「俺んちに連れて帰ろうとしたら直樹さんに会ったんだ」
だから、大翔の家じゃなくてあたしの家に居るんだね
「今はゆっくり休むと良いさ。無理はしなくて良い」
文字を書く気力もなくて頷くだけだった
「大翔くん。任せたよ」
「はい。分かりました」
お父さんはバタバタと出て行った
また、お仕事だな
《大翔、ごめんね》
迷惑掛けちゃった
「謝らなくて良い」
謝らなくて良いって言われても…
迷惑掛けちゃったもん、謝るよ…
大翔はあたしのベッドに寝転がるとあたしを抱き締めてくれた
「俺がやりたくてやってんの。迷惑なんて思わなくて良い」
どうして、この人はこんなに優しいんだろうか…
あたしには勿体ない人だ
人を信じることが出来なくなったあたし
こうやって抱き締めてくれる人なんて居なかった
今日くらいは甘えて良いよね?
「樹里、我慢してるだろ?」
言われてる意味が分からなくて大翔の目を見た
「樹音が居るから甘えたくても甘えられないんだろ?直樹さんにも心配掛けれないんだろ?」
大翔の言葉を最後まで聞くことにした
「話せないから不安になる。だから1人で抱え込む」
言ってることが当たっていて頷くことしか出来なかった
「俺を頼って。樹里の居場所でありたい。」
大翔の目は力強かった
「泣きたい時は泣いて良い。甘えたければ甘えて良いよ。」
“怒らないから”と頭を撫でながら言ってくれた
「直樹さんから樹音の兄貴としての役目も頼まれたけど…。1番は樹里の傍に居てほしいって言われたんだ」
お父さん、そんなこと言ってくれたんだ…。
「さっきの女達のこともあるし。1人で抱え込まなくて良い。」
大翔は優しすぎるんだよ。
「俺は樹里が好きだから。樹里の傍に居る」
大翔はあたしを強く抱きしめる
「只でさえ話せなくて不安なんだろ?周りが気付いてくれなくて。」
あたしは頷いた
「だから、俺の前では弱くなって良い。仮に樹里は俺の彼女だろ?今までいつも強がってばっかりだろうから弱音吐いて良い」
“どんな樹里でも受け入れる”と言ってくれた
此処まで優しいの、大翔が初めてだよ。
今まで、みんなあたしを避けてた
“話せないから”って…
それだけの理由。
いつも、ひとりぼっち
彼氏なんて出来ないって思ってた
自分が幸せになるなんて諦めてたんだ
でも、大翔となら幸せになって良いのかな?
こんなにもあたしのサポートしてくれて…
傍に居てくれるし、優しくしてくれる
大翔になら心を許しちゃうし、甘えたくなる
大翔の言っていた通り、樹音が居たから甘えられなかった
樹音のお姉ちゃんだからあたしがしっかりしなきゃいけないし。
だけど、話せない分どこか不便を感じる
あたしが話せないから樹音は“自分がしっかりしなきゃ”って思ってるらしい
まだ、小さいし甘えたいよね
「甘えたい時は甘えて良いよ。言いたいことがあったら言って良い。最後まで聞くから」
冬華以外の人には話せなかった
でも、大翔になら話せる気がする
嫌な顔、一つせずにあたしに接してくれるんだもん
こんな優しい人、居ないよね?
あたしには本当に勿体ないよね
「とりあえず、今はゆっくり休むと良い。俺、心配だから傍に居る」
《大翔って安心する》
今まで1人だったから誰かの温もりが恋しかった
こうやって抱き締めてもらうのもいつ以来だろう
「俺は樹里の味方であり居場所だから」
男の子にそう言ってもらえることが初めてだから恥ずかしい
だけど、心の片隅には“嬉しい”って思ってる自分が居る
とりあえず、今はゆっくり休もう
いつもなら寝付くのにかなりの時間が掛かる
過去の出来事が蘇ってくるから。
でも、今日は早く眠りにつけそう
ゆっくり眠れそうな気がする
これは、紛れもなく傍に居てくれる大翔のおかげ。