「じゃあ、大翔。宜しくね。樹里、バイバイ。樹音に宜しくね」
それだけ告げると冬華は行ってしまった
冬華も相変わらずだな
気付いたら教室には俺らだけ。
「荷物持つよ」
寺田は手で何かをしたけど俺には分からなかった
そして、適当に歩く
すると制服の裾を引っ張られた気がした
「ん?どうした?」
指をさしている方を見る
そこは公園だった
「公園行きたいのか?」
俺の問いかけに頷く寺田
ちょっと休憩するか。
寺田を連れたまま自販機に向かう
「なんか飲む?」
すると寺田はボードではなく小さなメモ帳とペンを取り出し“良いの?”と書いた
「もちろん。休憩しよう。何が良い?」
俺が聞くとミルクたっぷりの缶コーヒーを押した
そして、2人でベンチに座る
寺田は荷物を置きボードを取り出した
《付き合わせてごめんね?冬華も強引だから。》
「アイツの強引さはいつものことだ」
《相馬君、本当に良かった?もうすぐ樹音来ると思う》
「俺のことは大翔で良い。気になってたんだけど、樹音って誰だ?」
寺田は書いてたのを消し書き始めた
《あたしのことも樹里で良い。名字で呼ばれるの嫌いなんだ。樹音は妹だよ》
樹音って妹のことだったんだな。
《小学1年生なの。》
「妹か。良いな」
樹里の妹だから樹音も可愛いよな
《大翔は兄弟居ないの?》
「姉貴が1人。」
最近、会ってないけど。
「樹里。迎えに来たぞ」
声のする方を見ると格好いい男性と可愛らしい女の子が居た
俺は咄嗟に一礼した
すると、男の人も一礼した
《お父さん、樹音。お迎えありがと。この人は学校の同級生。冬華の知り合いみたい》
「冬華ちゃんのこと知ってるのかい?」
「あっ、はい。冬華とは一緒に居ること多いんです」
勝真と3人で行動してること多いしな
《お父さんも樹音も自己紹介したら?》
「あっ、そうだな」
そういえば、聞いてなかった
「樹里の父親の寺田直樹(テラダナオキ)です。宜しくな。こっちは樹里の妹の樹音(ジュネ)」
「寺田樹音です。明日から小学1年生になります。宜しくお願いします」
直樹さんと樹音ちゃんか…。
「樹里さんと同じクラスの相馬大翔です。宜しくお願いします」
自己紹介なんてめったにしないから緊張するな。
《お父さん、お仕事は?》
「今日は休み。明日は樹音の入学式で休みもらってる。とりあえず、帰ろう」
樹里のお父さん来たし俺も帰るかな。
「じゃあ、俺はこれで」
一礼をして去ろうとしたけど…
引っ張られた気がした
「お兄ちゃん、帰るの?」
俺は小さく頷いた
「大翔君、急で悪いんだけど時間あるかい?」
「はい。まぁ…」
家に帰ってもすることないし。
「じゃあ、家においで」
直樹さんの顔をみた後、樹里の顔を見た
《遠慮は良いからね。うちで良かったらおいで?多い方が楽しいし》
と書いてあった
「俺が行っても良いのか?」
樹里は笑顔で頷いた
その笑顔が可愛くて…
一瞬にして心を奪われた気がした
久しぶりに
再会した君は
変わってなくて
安心した
***************
「樹里ー!!準備出来たかい?」
お父さんが叫びながら入ってきた
今日は引っ越しの日
慣れ親しんだこの都会の街からおばあちゃん達が住んでいる田舎の家へと引っ越す
幼い頃に住んでた家へと戻るんだ
《準備出来たよ。お父さんも樹音も忘れ物ないようにね?》
「大丈夫。何回もチェックしたし。早めに親父のところに荷物も送ったし、いらない物は処分しただろ?」
《それはそうだけど…。》
と書いて詰まった
「冬華ちゃんも居るんだし、ゆっくり焦らず回復しような」
あたしは小さく頷いた
あたしは幼い頃に出した高熱が影響して話せなくなってしまった
だから、ホワイトボードが必需品
これがないと会話が出来ない
周りが言ったことは全て聞こえてる
ただ、あたし自身が話せないだけ。
「さっ、樹音は車に乗ったし俺らも行こう」
最終的チェックをして車に乗り込む
おばあちゃんの家までは車で2時間ほど。
田畑に囲まれた緑豊かな場所だ
「お姉ちゃん、忘れ物ない?大丈夫?」
あたしは小さく頷いた
妹の樹音。4月から小学生
話すことの出来ないあたしは寺田樹里。
高校2年生になる
今日、この家を離れおばあちゃん達との共同生活が始まる
楽しみもあり不安もある
お父さんの仕事の都合で引っ越すことになったあたし達。
それで、昔住んでたおばあちゃん達の家に戻ることとなった
お父さんが車を運転して2時間
都会の景色が緑豊かな田舎の景色に変わった
久しぶりだなぁ。
お父さんの仕事が忙しくてなかなか遊びにいけなかったから
「樹里、荷物置いてから学校に行くぞ」
あたしはミラー越しに頷いた
……緊張する。
“学校に行くぞ”と言われて落ち着かないあたし。
「ほら、着いた」
大きな二階建ての家の前に着くとお父さんはそう呟いた
「あっ、おばあちゃぁん」
樹音がおばあちゃんを見つけて叫ぶ
「来たか。お帰り。」
《おばあちゃん、今日からお世話になります》
と書いたホワイトボードを見せる
「樹里も元気そうね。ゆっくり休みなさい。冬華ちゃん、貴女が来るの楽しみにしてたわよ」
冬華に会いたいな。
「とりあえず、荷物運ぼうか。」
「樹里の部屋は2階の奥ね」
運べるだけの自分の荷物を持ちおばあちゃんが教えてくれた2階の部屋へと向かう
ダンボールに“樹里”と書かれたのが見えたからあたしの部屋は此処か。
まだ何もない殺風景な部屋
可愛くしなきゃだね。
「樹里、荷物置いたら学校に挨拶行くぞ」
あっ、学校に行くこと忘れてた
行きたくない。
とりあえず、時間はあるしゆっくり片付けしよ
あたしは準備をしてお父さんのところへ行く
「準備、出来たか。行くぞ」
高校までは歩いて行ける距離
お父さんと歩いて学校へ向かう
「そんなに緊張しなくても大丈夫。冬華ちゃんも樹里を待ってるよ」
冬華の名前を聞いて安心した
何も話すことなく学校へ着いた
「おー!!直樹。久しぶりー!!」
相変わらずテンション高いな、冬華のお父さん
「忠彦、久しぶりだな。樹里のこと宜しく頼むよ」
春川忠彦(ハルカワタダヒコ)さん
冬華のお父さんで春川学園の校長先生
理事長は冬華のおじいちゃん
「樹里ちゃん、久しぶりだね。可愛くなって。」
あたしはボードに言いたいことを書いた
《お久しぶりです。宜しくお願いします。あたしなんて可愛くないですよ?》
お父さんと冬華のお父さんは苦笑いしていた
「編入試験、受けなくて良いから。前の学校から成績関係の書類送ってもらった。頭良いみたいだし、春川学園に通って良いよ」
なんて呆気なく言われたから力が抜けた