「このボードに書いてある通り、樹里は話せない。けど、言ってることは全て聞こえてる」
みんな、小さく相槌を打つ
「知ってる通り校長先生や理事長は春川の親族だ。何かあったら一発で退学になるからな」
だから、苛めずに仲良くやれってことか。
「席は大翔と冬華の間な」
……えっ?
そう言われてみれば俺と冬華の間は空席だ
ちゃっかり、冬華が樹里の荷物を置いてある
寺田は一礼してから席に着いた
それからは配りものがあったり日程を教えてもらったり…
委員決めもした
勝真は体育委員
俺達3人は何も持たずに済んだ
女子からのお誘い激しかったけど…
「にしても、お前らずりーよ」
大半は小牧が決めてたから仕方ない
「先生が決めたんだから仕方ないよ。頑張れ、勝真。」
冬華に言われて黙る勝真
「寺田は?帰るんだろ?」
俺の言葉にピクリとしながらも小さく頷いた
そういえば、名字で呼ばれるの嫌いなんだっけ?
「大翔。送ってあげて。多分、家近いから。」
「そうなのか?」
「あっ、でも、樹音待ってるんだっけ?」
……樹音って誰だ?
「大翔。あんたどうせ暇でしょ?樹里と樹音送ってあげて」
なんか冬華に勝手に決められてるな
まぁ、良いかどうせ暇だし。
《相馬君、良いの?忙しくない?》
「良いよ。暇だから。それに冬華から頼まれたら断れないしな」
寺田は苦笑いしていた
冬華が怒ったら怖い
普段が怒らないから尚更だ
「じゃあ、大翔。宜しくね。樹里、バイバイ。樹音に宜しくね」
それだけ告げると冬華は行ってしまった
冬華も相変わらずだな
気付いたら教室には俺らだけ。
「荷物持つよ」
寺田は手で何かをしたけど俺には分からなかった
そして、適当に歩く
すると制服の裾を引っ張られた気がした
「ん?どうした?」
指をさしている方を見る
そこは公園だった
「公園行きたいのか?」
俺の問いかけに頷く寺田
ちょっと休憩するか。
寺田を連れたまま自販機に向かう
「なんか飲む?」
すると寺田はボードではなく小さなメモ帳とペンを取り出し“良いの?”と書いた
「もちろん。休憩しよう。何が良い?」
俺が聞くとミルクたっぷりの缶コーヒーを押した
そして、2人でベンチに座る
寺田は荷物を置きボードを取り出した
《付き合わせてごめんね?冬華も強引だから。》
「アイツの強引さはいつものことだ」
《相馬君、本当に良かった?もうすぐ樹音来ると思う》
「俺のことは大翔で良い。気になってたんだけど、樹音って誰だ?」
寺田は書いてたのを消し書き始めた
《あたしのことも樹里で良い。名字で呼ばれるの嫌いなんだ。樹音は妹だよ》
樹音って妹のことだったんだな。
《小学1年生なの。》
「妹か。良いな」
樹里の妹だから樹音も可愛いよな
《大翔は兄弟居ないの?》
「姉貴が1人。」
最近、会ってないけど。
「樹里。迎えに来たぞ」
声のする方を見ると格好いい男性と可愛らしい女の子が居た
俺は咄嗟に一礼した
すると、男の人も一礼した
《お父さん、樹音。お迎えありがと。この人は学校の同級生。冬華の知り合いみたい》
「冬華ちゃんのこと知ってるのかい?」
「あっ、はい。冬華とは一緒に居ること多いんです」
勝真と3人で行動してること多いしな
《お父さんも樹音も自己紹介したら?》
「あっ、そうだな」
そういえば、聞いてなかった
「樹里の父親の寺田直樹(テラダナオキ)です。宜しくな。こっちは樹里の妹の樹音(ジュネ)」
「寺田樹音です。明日から小学1年生になります。宜しくお願いします」
直樹さんと樹音ちゃんか…。
「樹里さんと同じクラスの相馬大翔です。宜しくお願いします」
自己紹介なんてめったにしないから緊張するな。
《お父さん、お仕事は?》
「今日は休み。明日は樹音の入学式で休みもらってる。とりあえず、帰ろう」
樹里のお父さん来たし俺も帰るかな。
「じゃあ、俺はこれで」
一礼をして去ろうとしたけど…
引っ張られた気がした
「お兄ちゃん、帰るの?」
俺は小さく頷いた
「大翔君、急で悪いんだけど時間あるかい?」
「はい。まぁ…」
家に帰ってもすることないし。
「じゃあ、家においで」
直樹さんの顔をみた後、樹里の顔を見た
《遠慮は良いからね。うちで良かったらおいで?多い方が楽しいし》
と書いてあった
「俺が行っても良いのか?」
樹里は笑顔で頷いた
その笑顔が可愛くて…
一瞬にして心を奪われた気がした
久しぶりに
再会した君は
変わってなくて
安心した
***************
「樹里ー!!準備出来たかい?」
お父さんが叫びながら入ってきた
今日は引っ越しの日
慣れ親しんだこの都会の街からおばあちゃん達が住んでいる田舎の家へと引っ越す
幼い頃に住んでた家へと戻るんだ
《準備出来たよ。お父さんも樹音も忘れ物ないようにね?》
「大丈夫。何回もチェックしたし。早めに親父のところに荷物も送ったし、いらない物は処分しただろ?」
《それはそうだけど…。》
と書いて詰まった
「冬華ちゃんも居るんだし、ゆっくり焦らず回復しような」
あたしは小さく頷いた
あたしは幼い頃に出した高熱が影響して話せなくなってしまった
だから、ホワイトボードが必需品
これがないと会話が出来ない
周りが言ったことは全て聞こえてる
ただ、あたし自身が話せないだけ。
「さっ、樹音は車に乗ったし俺らも行こう」
最終的チェックをして車に乗り込む
おばあちゃんの家までは車で2時間ほど。
田畑に囲まれた緑豊かな場所だ
「お姉ちゃん、忘れ物ない?大丈夫?」
あたしは小さく頷いた
妹の樹音。4月から小学生
話すことの出来ないあたしは寺田樹里。
高校2年生になる
今日、この家を離れおばあちゃん達との共同生活が始まる
楽しみもあり不安もある
お父さんの仕事の都合で引っ越すことになったあたし達。
それで、昔住んでたおばあちゃん達の家に戻ることとなった
お父さんが車を運転して2時間
都会の景色が緑豊かな田舎の景色に変わった
久しぶりだなぁ。
お父さんの仕事が忙しくてなかなか遊びにいけなかったから
「樹里、荷物置いてから学校に行くぞ」
あたしはミラー越しに頷いた
……緊張する。
“学校に行くぞ”と言われて落ち着かないあたし。
「ほら、着いた」
大きな二階建ての家の前に着くとお父さんはそう呟いた
「あっ、おばあちゃぁん」
樹音がおばあちゃんを見つけて叫ぶ
「来たか。お帰り。」
《おばあちゃん、今日からお世話になります》
と書いたホワイトボードを見せる
「樹里も元気そうね。ゆっくり休みなさい。冬華ちゃん、貴女が来るの楽しみにしてたわよ」
冬華に会いたいな。