【更新中】キミの声、聞かせて

----トントン


「失礼します。小牧先生居ますか?」


「おっ、冬華。こっちだぞ」


小牧は奥から手招きをした


小牧竜平(コマキリュウヘイ)


また、コイツが俺らの担任か。


「樹里、連れて来ました」


「寺田、待ってたぞ」


小牧が言うと寺田はしゃがみ込んだ


「あっ、先生。樹里は名字で呼ばれると不安になるから名前で呼んであげて下さい」


「あっ、済まない。“樹里”で良いんだな」


小牧の言葉に頷いていた


《先生が担任ですか?》


ホワイトボードを取り出し何かを書いたと思ったらそう書いていた


「あぁ。担任の小牧竜平だ。樹里のことは校長先生から聞いてるから心配ないぞ」


《宜しくお願いします》


と書き寺田は安心した表情を見せた
そういえば、冬華の親父って若くして校長先生だったな


祖父が理事長だったっけ?


「みんな始業式で体育館に行ってるんだ。もう少しで終わるし俺らも行こう」


----トントン


叩かれたと思ったら寺田が何かを書いていた


《荷物、ありがとう。ごめんね》


……そういうことか


「謝らなくて良いよ。教室まで持ってやる」


「うわっ。大翔が優しい。しかも、素の優しさだ。いつもだったら作ってるのに…」


冬華はいつも一言多いんだよな。


「でも、悪いヤツじゃないから何かあったら頼ると良いよ」


「そうだ。冬華じゃカバー出来ないところもあるだろうしお前も手伝ってやれよ」


俺は小さく頷いた


寺田は冬華と一緒


周りの女達とは違う気がした
「樹里の荷物、持って行くからね。先生とおいで」


寺田が小さく頷いたのを見て俺らは教室に戻る


「2人とも何処行ってたんだよ。探したぞ」


あっ、勝真の存在忘れてた


冬華も俺と同じ顔をしていた


「はいはーい。席につけよ」


小牧が元気良く入って来た


「転校生を紹介する。入ってこい」


“転校生”と言った途端、静まり返った


緊張した面持ちで寺田が入ってきた


「うわっ。可愛い」


「お友達になれるかな?」


「彼女にしたい」


なんていう男女の会話が聞こえる


「自己紹介してな」


すると寺田はホワイトボードをこちらに向けた


《寺田樹里です。訳あって話せませんが宜しくお願いします》


と丁寧な文字で書いてあった
「このボードに書いてある通り、樹里は話せない。けど、言ってることは全て聞こえてる」


みんな、小さく相槌を打つ


「知ってる通り校長先生や理事長は春川の親族だ。何かあったら一発で退学になるからな」


だから、苛めずに仲良くやれってことか。


「席は大翔と冬華の間な」


……えっ?


そう言われてみれば俺と冬華の間は空席だ


ちゃっかり、冬華が樹里の荷物を置いてある


寺田は一礼してから席に着いた


それからは配りものがあったり日程を教えてもらったり…


委員決めもした


勝真は体育委員


俺達3人は何も持たずに済んだ


女子からのお誘い激しかったけど…


「にしても、お前らずりーよ」


大半は小牧が決めてたから仕方ない
「先生が決めたんだから仕方ないよ。頑張れ、勝真。」


冬華に言われて黙る勝真


「寺田は?帰るんだろ?」


俺の言葉にピクリとしながらも小さく頷いた


そういえば、名字で呼ばれるの嫌いなんだっけ?


「大翔。送ってあげて。多分、家近いから。」


「そうなのか?」


「あっ、でも、樹音待ってるんだっけ?」


……樹音って誰だ?


「大翔。あんたどうせ暇でしょ?樹里と樹音送ってあげて」


なんか冬華に勝手に決められてるな


まぁ、良いかどうせ暇だし。


《相馬君、良いの?忙しくない?》


「良いよ。暇だから。それに冬華から頼まれたら断れないしな」


寺田は苦笑いしていた


冬華が怒ったら怖い


普段が怒らないから尚更だ
「じゃあ、大翔。宜しくね。樹里、バイバイ。樹音に宜しくね」


それだけ告げると冬華は行ってしまった


冬華も相変わらずだな


気付いたら教室には俺らだけ。


「荷物持つよ」


寺田は手で何かをしたけど俺には分からなかった


そして、適当に歩く


すると制服の裾を引っ張られた気がした


「ん?どうした?」


指をさしている方を見る


そこは公園だった


「公園行きたいのか?」


俺の問いかけに頷く寺田


ちょっと休憩するか。


寺田を連れたまま自販機に向かう


「なんか飲む?」


すると寺田はボードではなく小さなメモ帳とペンを取り出し“良いの?”と書いた


「もちろん。休憩しよう。何が良い?」


俺が聞くとミルクたっぷりの缶コーヒーを押した
そして、2人でベンチに座る


寺田は荷物を置きボードを取り出した


《付き合わせてごめんね?冬華も強引だから。》


「アイツの強引さはいつものことだ」


《相馬君、本当に良かった?もうすぐ樹音来ると思う》


「俺のことは大翔で良い。気になってたんだけど、樹音って誰だ?」


寺田は書いてたのを消し書き始めた


《あたしのことも樹里で良い。名字で呼ばれるの嫌いなんだ。樹音は妹だよ》


樹音って妹のことだったんだな。


《小学1年生なの。》


「妹か。良いな」


樹里の妹だから樹音も可愛いよな


《大翔は兄弟居ないの?》


「姉貴が1人。」


最近、会ってないけど。


「樹里。迎えに来たぞ」


声のする方を見ると格好いい男性と可愛らしい女の子が居た
俺は咄嗟に一礼した


すると、男の人も一礼した


《お父さん、樹音。お迎えありがと。この人は学校の同級生。冬華の知り合いみたい》


「冬華ちゃんのこと知ってるのかい?」


「あっ、はい。冬華とは一緒に居ること多いんです」


勝真と3人で行動してること多いしな


《お父さんも樹音も自己紹介したら?》


「あっ、そうだな」


そういえば、聞いてなかった


「樹里の父親の寺田直樹(テラダナオキ)です。宜しくな。こっちは樹里の妹の樹音(ジュネ)」


「寺田樹音です。明日から小学1年生になります。宜しくお願いします」


直樹さんと樹音ちゃんか…。


「樹里さんと同じクラスの相馬大翔です。宜しくお願いします」


自己紹介なんてめったにしないから緊張するな。
《お父さん、お仕事は?》


「今日は休み。明日は樹音の入学式で休みもらってる。とりあえず、帰ろう」


樹里のお父さん来たし俺も帰るかな。


「じゃあ、俺はこれで」


一礼をして去ろうとしたけど…


引っ張られた気がした


「お兄ちゃん、帰るの?」


俺は小さく頷いた


「大翔君、急で悪いんだけど時間あるかい?」


「はい。まぁ…」


家に帰ってもすることないし。


「じゃあ、家においで」


直樹さんの顔をみた後、樹里の顔を見た


《遠慮は良いからね。うちで良かったらおいで?多い方が楽しいし》


と書いてあった


「俺が行っても良いのか?」


樹里は笑顔で頷いた


その笑顔が可愛くて…


一瞬にして心を奪われた気がした