…知らない。こんな浮気するようなお母さん。

信じてた人に裏切られた気持ちは、言葉に表せない程だった。

今迄、たくさんすくいあげてきた思い出という砂が、
手の隙間から一気に堕ちる瞬間だった。


翌日からは、お父さんの顔も見れなく、口もきけなかった。
お母さんは相変わらず夜中に帰ってくるし、
彩ひとり、ズシンと毎日おもりを吊り下げられた気分だった。

浮気相手の家庭からの嫌がらせは、日に日にキツくなるし。
家に押し寄せられる時もあれば、家から出れないし。

卒業間近だというのに、学校は休みがちになった。


そんなある日、珍しくお母さんが夕方帰ってきた。

「ただいまー!彩!いるー?」

玄関から甲高い声で笑いながら彩の名前を呼ぶお母さん。
お酒飲んでるのかな。
玄関を曲がるとこで、すごい酒の匂いがした。

「ッ!」

足が止まった。
…誰?

「こんにちは。折原です。」

ペコッとお辞儀をしたのは、茶髪の長身のしっかりしてそうな男の人。

「私の婚約あーいてっ!」

語尾にハートがつくような甘い声で、折原さんと名乗る男の人の肩に頭を乗せるお母さん。