「僕は何もしていないよ」

 照れたようなマークの言葉に、ベリルはゆっくりと首を振る。

「施設ではよくしてくれました」

 私の名も報告しなかった。だから私は、今まで自由でいられた。

「そんなことか。友達なんだから当り前だろう」

 立ち上がったマークは食器棚からグラスを取り出し、コルク抜きをベリルに手渡す。

 グラスに琥珀色の液体が注がれると、独特の薫りがマークの鼻を刺激した。

 手にしたグラスを眺めて、ツンとした揺れる琥珀を少し口に含む。

 熟成された高い薫りと味わい、ほのかな甘みにマークの頬は緩み、本当に高級品だと目を丸くする。

 二人は言葉を交わすこともなく、上品な樽の風味をしばらく楽しんだ。

 心の奥まで染みこむような、まさに eau-de-vie(オー・ド・ヴィ。命の水)だとベリルを見つめる。