兄さんも少し、寂しげな顔をする。それを見た私は、兄さんが香輝の父親なんだと実感した。




先輩から聞いた、兄さんと香輝の親子関係は、私は一度として口にした事がない。


それが、口にしていい事か悪い事かぐらい容易に判断が出来る。


だから、兄さんは元より、教えてくれた樋高先輩にも話す事なんてない。





香輝も知ってるのか知らないのかも私には、分からないままだった。


でも、それでいいのかもしれない。



「樋高礼司は、来てないのか?」

「先輩は、仕事で忙しいみたいです」



…まぁ、さすがに母校にまた来るなんてそう滅多にないもの。



先輩は、来ない。だって昨日、仕事があるから…ごめん。って、言ってたもの。


別に気にしなくてもいいのにね…。



「…………そうなのか? じゃ、あれは何だ?」




兄さんの指差す方に視線を投げれば、同級生たちの色めき立った声が上がり、その中心には…先輩が私の方へ歩いて来てた。