「じゃ、行って来る。里莉、何からあったら電話をしろ。イヤな事だけじゃない、イイ事もだ」
少し、真剣な顔で私に言い聞かせる兄さんに、暗示をかけられたように小さく頷いた。
…でも、海外に電話って…かなり高いんじゃないのかな?
「行ってくる」
「はい」
腕時計で時間を確認した兄さんは、香輝が歩いたであろう方へ足を向けて、私の前から立ち去った。
タダ一人残された私は、一瞬、先輩の所へ行くのが怖くて、その場に立ち尽くしてしまった。
最後の一瞬の寂しそうな目をした先生を思い出すと、胸がギュッと痛くなる。
知らない内に人を傷付けていたなんて…。
……無性に先輩に会いたくなって、一歩を踏み出した。
一歩。また一歩。
ユックリだった歩きは、次第に早歩きになって…展望デッキを目指して、少しずつ足を早めて…最後には走り出した。
先輩に会いたくて、会いたくて、少しでも早く…。