マンションの数ある内の中からある一つの扉の前に立ち止まって先輩はポケットから鍵を取り出して、手慣れたように鍵を開けた。


「…入って」
「え…?」


先輩の言ってる言葉が理解出来なくて、私は体を凍り付かせてその場に立ち止まる。


「え…な、何で…」


「話がしたいんだ。大事な、俺の…」


少しずつ握られた手が、強くなって…汗ばんできてるみたい…。


……緊張、してるのかな?


「な、中に入らないと出来ない話なんですか?」



「…サ店じゃ、話づらくてさ。俺、ちゃんと話したいんだ里莉と…」



…あの時の顔だ…。


香輝が発作が起きたって連絡があった時に、私が取り乱して先輩が慰めてくれた時と同じ、真剣な顔、真剣な目。