「携帯を鳴らしたが一向に出る気配が無いからな。GPSでお前を探した」


そう言い終えると兄さんは、深い深い溜め息を吐いた。



苦々しい表情で…切れ長の目を細めて、まるで私を侮蔑するような…ううん、まるで、じゃなくて本当に侮蔑した目だ。



…それもそうだよね。




「…ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」


頭を下げて、床に落ちていたカバンを掴むと私は兄さんの方へ静かに歩いて行く…このあと、どういう事があるかを分かっていながら…。



「先輩…。お先に失礼します」




先輩に向かって、ちゃんと頭を下げた私はそのまま兄さんの所に近付く。



バシン!





「…ッ…」

「な、何すんだよっ!!」

「…君には関係のない事だ」



殴られたのを見て驚いた先輩が、私の肩を掴んで庇う格好をした。



けれど私には余計なお世話でしかなくて…苛立ちしか、込み上げて来る事しかない。


「先輩…やめて下さい」低い声で行ったせいか、先輩はそれ以上何も言わなくなった。



「先輩には色々とお世話になりました。…これはホンの気持ちです」



そう言って私は、先輩の手の中にさっき手渡そうとした3万円を捩じ込んだ。


そして、私はそのまま先輩に背を向けて、図書室を出ていった。




だから、私は先輩が私に何か言いたそうな顔をしていたかなんて、気付かなかった。