「よくぞ来てくださいました!」
大げさに両手を広げながら、乙戯花氏は姫羅と王輝を迎え入れた。
その様子を横目で眺めながら、すっと姿勢を整える。
私は、2人を部屋の中央にある真っ白なソファーに座るように促した乙戯花氏の後ろにそっと移動した。
「あたくし達が呼び出された理由は何ですの? 不手際があるのでしたら早急に改善いたしますが……」
「あぁ、違うのよ!あなた達は悪いことをしたから呼び出されたんじゃないの。
むしろ、素晴らしいから招いたのよ!」
不思議そうに首を傾げる姫羅の動きに合わせて、綺麗に巻かれた黒髪がさらっと揺れる。
その隣では、王輝が表情を硬くした。
乙戯花氏はなんでこんなにも楽しそうなんだ……。
学園長のこんな姿をいきなり見せられたら……彼らのような反応になるのも頷ける。
「乙戯学園は素晴らしい学園よ。こんなにも平和で、皆が学業や部活動に真剣に取り組むことのできる高校が他にあるなんて、私は思わない。
でもね、こんなに素晴らしい乙戯学園にだって、悩みを抱えている生徒はたくさんいるんじゃないかしら?
だって、あなたたちは思春期の真っ最中なんですもの!悩みの1つや2つ、抱えて当然でしょう?
悩むのも青春。そうは思うけど、多くの子がそれらを自分の中でため込んでいると思うと……やっぱり悲しいわ」
乙戯花氏が、白いレースが華やかな、ピンクのハンカチで目頭を押さえる。
だが、涙など流してもいない乙戯花氏は、すぐにハンカチを翻した。
「だから私は考えたの。そういった“悩み”を解決する機関があればいいってね!」