「はーるこ。次、生物講義室だよね?」


「うん、そうだね、あっきー。」



友達の亜希子と一緒に、教室を移動する。

亜希子とは、中学の頃からの仲良しだ。



「横山先生、分かりやすいよね!」


「うーん。まあね。」


「え?晴子、横山先生嫌い?」


「ううん、嫌いじゃないけど、好きでもないかな。」



横山先生とは、私たちの受け持ちの生物の先生。

高校生になって初めて、生物という教科ができて。

小学生の時から、植物観察会などによく参加していた私は、少し楽しみだった。

生物って、どんなことやるんだろうって。


横山先生の授業は面白くて分かりやすかった。

でも、何かが足りない気がしたんだ。

授業中にたまに出る雑談が、生物のことじゃなくて家族のことだったりするからだろうか。

いや、それともまた違う気がする。

多分、生物は、暗記科目なんだなって思ったから。

植物観察会の時のようなドキドキは、味わえないと知ってしまった。


確かに、ここは理数科で、大学受験でいいところに受かることを目的とした授業なんだと思う。

それは分かるけれど。

何か、味気なかった。



だから、私はいつも、生物の授業は聞き流すようになってしまった。



生物講義室の机は、実験室用の真っ黒な長机だ。

シャーペンで落書きすると、見えにくいけれどちょっと光って見える。

私はいつも、そこに小さな落書きを書いて過ごした。


たまに、上級生から落書きに対するコメントがあったり。

つぶやきに、返事が書いてあったり。

そんなことが、日々の小さな楽しみだった。



そして、それはまた、私の日常への小さな小さな反抗だった。