その頃、面白い授業と言えば、こんなのがあった。

生物の授業中に、川上先生が点滴のパックを端の机から回したんだ。



「ほら、書いてあるだろ?ヒトの生理食塩水の濃度は、0.9%なんだぞ。」



裏返してみたら、そこに片仮名で先生の名前が書いてあった。

つまりは、これは先生に使われた点滴、ということで。

何だか、心配になってしまう。

するとあっきーが、ナイスな質問をしてくれた。



「え、先生何で点滴したの?」


「転んだ。」


「え?」


「転んだ。」



意味わかんなくてみんなで笑ったんだけど、後でよく聞いたらちょっと素敵な話だった。



どうやら先生は、随分昔のことらしいけど、受け持ちの生徒の大学の出願書類か何か、大事なものを持って歩いてたらしい。

季節は冬。

地面は凍っていて……。

それで転んだ、と。


そして、手をつこうと思ったんだけど、とっさに出願書類を守ってしまって、ひどい転び方して―――

で、病院行きになったらしいの。



「でも、書類はちゃんと守った。」



そう言ってた先生。

川上先生らしいな、と思う。



しかも、病院で点滴の袋を、わざわざ「ください。」って言ったらしくて。

その理由は、「生物の授業で生徒に見せるから」で。


あまりにも面白くて、笑っちゃったけど。

そんなふうにいつも、生徒のことを一番に考えている川上先生。

そんな先生のこと、やっぱり私は、尊敬しています。