まあそんなわけで。

担任とはどんどん関係が悪くなっていったけれど。


とうとう、数学が演習の授業になると、私は違う先生に教わることができることになった。

それは、天野先生だ。(※『雨の日は、先生と』の天野先生のモデルになった先生です)

天野先生は、もうすぐ管理職。

ベテランの先生だった。


その先生に教わるようになってから、私はどんどん数学の成績が良くなっていった。

先生が違うと、ここまで違うのだろうか。

私は天野先生の授業が、とても好きだったんだ。


天野先生は、語りかけるような口調で授業をした。

まるで、世間話をしているみたいに。

あんまり大きな声じゃないけど、すごく聴きやすい。

私の出会ったことのないタイプの先生だった。



「横内さんは、数学が苦手ですか?」


「はい。」


「苦手、と思ってはいけない。意外に、できるものですよ。」



その言葉通り、数学の面白さを伝えてくれた先生。

もしも一年の頃から、担任じゃなくて天野先生に教わっていたなら。

私は、医学部を諦めることもなかったのではないか、とちらっと思った。

まあ、そんなこと言っても仕方のないことだけれど。


天野先生は、授業中に言っていた。



「結局、何がいい先生かなんてわからないんですよ。何もかも教えてしまえば、それがいい先生かというと、それは違う。疑問があるから、自分で勉強しようと思うわけですからね。いい加減な先生の方が、いい先生かもしれないし。難しいですね。」



その言葉に、すっと胸が軽くなった気がした。

反発しながらも、担任の言葉は、刃物のように私に突き刺さって、抜けなかったから。

それを上書きするような、穏やかな天野先生の言葉には、いつも感動していた。

川上先生に加えて、天野先生に会えたこと。

それは、私にとってすごく大事なことだったと思うんだ。