俺、神谷雪斗はいたって普通の男子高校生だ。
悩みも特に無いし、凄い特技もない。
…なのに。

「なんでだよ…夢じゃないのか?」


事の始まりは、ついさっき。
友達と別れ、帰宅の為に商店街を歩いていた。
夕方だから人も多く、賑わっていた。
涼しい秋風が吹き前髪が浮いた。
利き手の左手で前髪を軽く押さえる。
風が止み、なんとなく右を向いた。
ら、
「…どこだよ、ここ。」
どうしてこうなった。
さっきまでの日常風景は綺麗に消え、代わりに白い宮殿?のような所にいた。
「…」
いやいやいや。
落ち着けって俺。
中二病は克服したし、色々捨てた。
大丈夫、問題な…
「ないわけないだろっ!」
俺は叫び、床に座り込んだ。
床石が冷たい。
頭を抱え、頬を抓る。
「いひゃっ…」
力強く抓り過ぎた。
しかし、感覚がある=夢ではない。
…のか?
「俺なんかやったか…?」
呪われた前世…いや、そういうのはもう卒業しただろ!?
悶々と一人考えていると、ゆったりとした足音が響きだした。
俺は眉をひそめつつ、顔を上げた。
「ん…。」
そこには、金髪ロングの巻き髪美少女がいた。
微笑みながらこちらに来る。
…どうやら翼が生えているようだ。
自分の前世が闇の魔術師だと信じ日夜修行に励んでいた俺でさえこの事実に目を疑った。
以前の自分なら、わけのわからない事を呟いてから身構えただろうが、今の俺がするのはいたって普通の事。
警戒だ。
「ユキト様、お待ちしてましたのよ!」
美少女は俺に近寄り、抱きついた。
ふわりと花の香りが漂う。
いやいや、違うだろ俺!
「あ…あの、俺の事知ってるんですか?

俺は腕を剥がそうとしたが、剥がれなかった。
華奢に見えるが、そうではないようだ。
美少女は歌うように言った。
「えぇ、勿論!だって、私とユキト様は運命の恋人ですのよ?」
頭がフリーズした。
言語理解能力が著しく低下する。
「ウンメイノコイビト…とは?」
なんとか口にした疑問を言う。
美少女は、ついうっかり☆という様子で答えた。
殺意が少し湧いた。
どうやら俺はこの理解出来ない状況にかなりイラついてきているらしい。
最早、自分の状態すら分からない。
「すいません、ユキト様…。私ったら…。」
「イイエ、ダイジョウブデス。」
美少女は、ゆっくり立ち上がり真剣な目をして語り出した。