幸福な夢から覚めた少年ーーー朝日宮(あさひのみや)は、しばらくぼんやりと虚空を見つめていた。





身舎(もや)と広廂(ひろびさし)の境に掛けられた御簾(みす)の隙間から、淡い陽光が筋になって射しこんでいる。




その光が、よく磨きこまれた床板をつややかに輝かせていた。





朝日宮がゆっくりと身を起こすと、その衣擦れの音を聞きつけたらしく、くすりと笑う声が響いてきた。






「あら。やっと起きたの、お寝坊さん」





「お母さま」







朝日宮は、まだあどけない頬に、花咲くような笑みを浮かべた。





まだ年若い母―――明子(あかるこ)の君もつられたように微笑む。







「なんだか嬉しそうなお顔をしているわね」





「あのね、久しぶりに、お兄さまの夢を見たんです」