心から尊敬しているような眼差しで疾風を見つめる沙霧を、氷見は可笑しそうに眺めた。






「………あんた、面白い奴だなぁ」




「え?」






笑いを堪えたような声音で言われて、沙霧は目を丸くした。






「だって、あんた、いちおう帝の御子なんだろう?


大勢の人間にかしづかれて、なんだって思い通りになるだろうし、それが当たり前に許される立場だろうに。



なのに、自分のことを我儘だの勝手だのと言うなんてな。


変わった皇子もいたもんだ」






氷見は感嘆の思いでそう言ったのだが、意外にも沙霧の顔には翳りが走った。






「…………そうでもないさ」





「え? なんだって?」






顔を俯けた沙霧の小さな呟きが聞き取れず、氷見は首を傾げて訊き返す。





沙霧は眉を下げて力無い笑みを浮かべ、今度ははっきりと言った。






「そうでもないよ。


皇子だからって、何もかもが思い通りになるわけではない。



むしろ………何ひとつ、思い通りにはならなかったよ………」