(親父と、灯の父親は、ただの友だちじゃなかった。

幼い頃から共に育った、兄弟のようなものだった。

まるで、俺と灯みたいに。


そんな人を失って、親父はどれだけ悲しんだんだろう?


きっと、忘れ形見の灯だけが、救いだったんだ。


だから灯を大事にしているんだな)





そんなことを考えながら、遥か頭上の灯を眺めていると、灯が唐突に隣の樹へと飛び移った。



そのまま、次々に枝から枝へと移っていく。





「えっ、おい、灯! どこへ行くんだ」





灯は何も答えず、いきなり樹から飛び降りて、藪の中へ飛び込んで行った。




慌てて追いかけた群雲の前に、ひょい、と灯が出て来た。





「わっ! 急に出てくるなよ、びっくりするなぁ」





灯は何も言わず、握りしめた右手の拳を、ずいっと群雲の前に差し出した。





「え? な、なんだよ」




「これ、やるよ」




「へっ?」