「あっ、灯!」





目ざとく見つけた群雲が、ぶんぶんと手を振りながら呼ぶ。




しかし灯はそれには気づかない様子で、初夏の風に深緋の髪をなびかせながら、ぼんやりと空を見上げていた。





「おーい、灯ってば!」





群雲が駆け寄って軽く肩を殴ると、灯は





「………なんだよ、急に。痛いな」





と迷惑そうな顔をした。




疾風はくすりと笑い、「こっちへ来い、菓子があるぞ」と手招きをする。




群雲は駆けて戻ってきたが、灯はやはり空を仰ぎながらゆったりとした足取りでやってきた。





「本当にのんびりしているなぁ、灯は」




「…………」





灯はいつものように無言で、何も答えない。