しかし朝日宮は、迷いのない声音で、濁りのない瞳で、きっぱりと繰り返す。





「私は、今回のことで、人の世というものに嫌気が差したのです。


これからは、仏の世で生きていきたいのです。


沙霧お兄さまの冥福をお祈りする、静かな弔いの日々を………送りたいのです」





朝日宮の決心が固いことを悟り、明子は目を閉じた。




そして、ゆっくりと瞼を上げる。





「………分かりました。


では、お母さまも、共に出家します」





朝日宮は驚いたように顔を上げ、じっと母の面持ちを見つめた。





「お母さま………よろしいのですか?」





「ええ。私も、ここには嫌気が差したの。

でも、主上に輿入れした私は、ここから逃れることなど許されない。


出家する以外は………」





明子の穏やかな笑みには、強い決意が滲んでいた。



長年に渡り、我こそは帝の寵愛を得ようと争う女たちの中に置かれて、明子は疲れ切っていた。