「………沙霧お兄さま………」





まるで、死を予見していたかのようだった。




皇位争いの果てに、自らが兼正の手の者に命を奪われることを、知っていたかのようだった。





(お兄さまは、分かっていらっしゃったのだ。


ご自分が、奥津宮を取り巻く者たちから疎まれていることを………。


だから、宮中を出られたのだ。



それなのに、結局………)





朝日宮は、血が滲むほどに強く唇を噛み締めた。



握りしめた拳は小さく震えている。





横から文に目を通した明子は、慰めるように朝日宮を抱きしめた。





「…………恐ろしいところですね、ここは………」





朝日宮はぼんやりと呟く。





「お兄さまのような、心優しく清らかな御方が、なぜ殺されなければならなかったのか………。


お兄さまが帝になられたら、さぞ良い世の中になっただろうに………」





「そうね………。

でも、それが分からない人たちがほとんどなのよ、ここでは」