『朝日へ



この手紙を

お前が読んでいるということは


昔よく二人で

橘の実の汁を使って

秘密の手紙を書き合ったことを

覚えていてくれたということだね


嬉しいよ

ありがとう



あの頃が懐かしい


何も知らずに きれいなものだけを見て

楽しいことだけして

生きていられたあの頃



いつの間にか

この宮中という場所は

わたしにとっては

生きづらくて仕方のない場所に

なってしまっていた


弱音を吐いてしまうと

命が危ういとさえ感じている


自分の欲していないもののために

危険にさらされるというのは

嫌なものだ


そして わたしの命を奪うことで

実の弟が罪に堕ちるのを見ることも

悲しいのだ



だから わたしは逃げることにした



朝日よ 許しておくれ

お前を残して逃げ出す兄を


お前は素直で優しいから

きっと宮中でも上手くやれるだろうが


嫌気が差したら

いつでも逃げ出したって良いんだよ



もう会えないかも知れない

寂しいけれど 仕方がない


お前がわたしの弟でよかった』