「あんなにお優しい五の皇子さまのお命まで奪うなんて………。


なんという恐ろしいことを………」





明子は両手で顔を覆った。




朝日宮は泣き腫らした目でそれを見ていたが、ふいに立ち上がり、二階棚の上に置かれていた文箱(ふばこ)を出してきた。




蓋を開け、中に入っている文(ふみ)を取り出す。





「…………沙霧お兄さまからの、最後のお手紙………」





苦しげに呟き、端整な字で書かれた文をじっと見つめていると、また涙が滲んできた。




沙霧宮が宮中から姿を消した日、その部屋に残されていた文だった。




昔の友に会いに行く、というようなことが、簡潔に書かれているだけだった。





まさか、こんなことになるなんて………。




それが兄からの最後の言葉だと思うと、悲しくて切なくてやりきれなかった。





朝日宮は顔を歪めて、いつまでも文字を目で追っていた。