母の待つ綾景殿に戻った途端、朝日宮の目から涙が溢れた。




「…………っ」




必死に堪えようとするが、嗚咽が止まらない。




頬を濡らしながら、朝日宮は母の部屋に入った。





「まぁ、朝日! どうしたの?」




「お母さま………」





朝日宮は母の前に崩れ落ち、床に額をつけて激しく泣きじゃくった。





「………お兄さまが……お兄さまが……」





うわ言のように繰り返しながら泣く朝日宮の背中を、明子は何度も撫でた。




少し落ち着いてきたところで、朝日宮は事の次第を母に語った。





明子はきつく眉根を寄せ、「そう……」と呟いた。





「あまり驚かれないのですね、お母さま」




「そうね………宮中というところには魔が潜んでいるのだと、この十数年で、私には分かりすぎてしまったもの。

誰もが自らの欲に振り回されて、恐ろしい罪を犯してしまう………」