(………やはり、信じられない。


お兄さまが、もうこの世にはおられないなんて………。


この目で確かめてもいないのに、そんなことを信じられるわけがない)





朝日宮は深く息を吐き、立ち上がった。





「外の空気を吸って、気分を変えてまいります」





小さく呟くと、明子は頷いた。





「そうなさい。

こもってばかりでは、気が滅入るばかりだもの。


外はもう春の気配がして、梅の蕾も緩みはじめているのよ」




「はい、ありがとうございます」





外からの出入りの少ない後宮は、いつもひっそりと静まり返っている。




その静けさがつらくて、朝日宮は何とはなしに、飛涼殿のほうへと足を向けた。





壺庭に埋められている梅の樹を眺めながら廂を歩いていると、不意に、向こうから近づいてくる足音が聞こえてきた。




朝日宮は道を開けるように格子に身を寄せる。




そのうち、話し声も聞こえてきた。




それに耳を澄ませていた朝日宮は、声の主に気がついて、はっと顔を上げた。