しかし、宮中では沙霧宮の死は確かなものとされ、もはやその名さえ人々の口からは出されなくなってしまっていた。




今は、沙霧宮に次ぐ春宮候補の話題で持ちきりなのである。




野心家で気性の荒い七の皇子・奥津宮か、それとも素直で心優しい十の皇子・朝日宮か。




有力貴族たちは、どちらに付くことが自分の家にとって有利なのか、周囲の動向に目を光らせていた。




奥津宮は自我が強すぎるきらいがある。


朝日宮が皇位を継げば、さぞ扱いやすい帝になることだろう。




しかし、奥津宮の後ろ盾である外祖父の兼正は中納言の位にあり、しかも近頃は宮中での権勢がみるみる強大になっていた。



朝日宮についた者は、容赦なく引き摺り下ろされるに違いない。




そんな葛藤が渦巻いているのだった。





しかし、その渦中の人物である朝日宮は、誰よりも慕っていた兄、沙霧宮の死の報を受けてから、引きこもりがちになっていた。