「ーーー朝日や。


もうじき昼ですよ。


そろそろ起きなさい」





気遣わしげに起床を促す母、明子の声に、朝日宮はゆっくりと身を起こした。




寝屋から出て来た朝日宮の顔色を見て、明子は眉をひそめる。





「………ゆうべも眠れなかったの?」




「………はい。

沙霧お兄さまのことを、考えていたら……どうしても目が冴えてしまって」




「………そう」





明子は小さく頷き、暗い面持ちの朝日宮を抱きしめた。




慰めの言葉など、思いつくはずもなかった。




ここ数日で、『帝のご嫡男、沙霧宮が逝去した』という噂は、都じゅうに回っていた。




兼正が正式な手続きに則ってそのことを帝に奏上し、これは誤りようもない事実だと確かめられた。




沙霧宮の捜索をしていた兼正の部下たちが、その死を確認し、遺物も持ち帰ってきたのだ。





「………信じられません。

お兄さまが……亡くなっただなんて」





朝日宮は苦しげな声で呟いた。