「沙霧…………沙霧」





泡雪の目から、とめどなく涙が流れた。




それは頬を濡らし、沙霧の手に伝った。




ぼんやりとしたまま、沙霧はそれを眺めている。




一度魂を手離した沙霧には、どういう状況なのか、何も分からなくなっていた。



ただ、泡雪が側にいるという幸せだけが、そして泡雪が涙を流しているという事実だけが、沙霧の心を占める。





「どうたんだい、泡雪。

嫌な夢を見たのか?

それとも、悲しいことがあったのか?」





「うん………これは、夢だ。

とても悲しい、嫌な夢だ………」





自分に言い聞かせるように、泡雪は囁いた。





力が入らない。



身体が重くて仕方がない。




泡雪は沙霧の腕の中に倒れこんだ。




温もりをほとんど失った腕だったが、それでも、優しくて、あたたかかった。




安らかな気持ちが胸に湧きあがってくる。