「………呆気ないものだな。

人の命というものは………」





黒鶴は小さく呟き、ただの屍と化した沙霧に手を合わせた。





(………失うには、あまりにも尊い御方だったが………。

時の運を持ち合わせておられなかったのだ………)





魂を失った沙霧の相貌は、それでもやはり、高貴で美しく、そして穏やかだった。





(ーーー恐ろしい魔の巣食う、あの宮中という場所で生きるには、あまりにも清らかでお優しいお人だった。


この御方は、生まれ間違ったのだ………。

荻原兼正という強大な力を持つ男に疎まれ、それでも生き抜くほどには、したたかではいられない御方だった。

皇子としてお生まれにさえならなければ………)





やりきれない思いを胸の奥に押し込めて、黒鶴は立ち上がった。





「………若宮さまは、お亡くなりになられた。

この雪山から、御遺体をお降ろし申し上げるのは無理だ。

ーーー行くぞ」





黒鶴を先頭に、物々しく武装した男たちは、傷つき疲れきった身体を引きずるようにして、白縫山を下っていった。