やるせないような思いを抱えたまま黒鶴が黙っていると、





「さあ、長居は無用だろう。

もう行こう」





と、沙霧が先を促すように言った。



黒鶴は一つ息をもらし、静かに頷いた。




それを合図に、男たちが一斉に沙霧の周りに集まる。



沙霧が逃れないように腕をとろうとするのを、黒鶴が「やめろ!」と止めた。





「無礼ぞ。宮さまは先ほど、逃げも隠れもしないと言ってくださっただろう。

捕らえる必要はない」




「はっ」





彼らは一礼し、すぐに後ろに控えた。




黒鶴は沙霧に「参りましょう」と声をかけ、降り積もった雪を踏みしめるように歩き出す。




沙霧は黙って後に続いた。




吹雪はいっそう勢いを増し、視界が霞むほどだ。




一度だけ、沙霧は後ろを振り向いた。





「………さようなら、白縫山」





誰にも聞こえないほど小さな声で、ひっそりと呟く。



二度と戻らない場所。




何も訊かずに受け入れてくれた優しく温かい人々を、愛しい純白の面影を、切なく思った。