なぜ、そんな名をーーー




沙霧が苦しげに眉をひそめたとき、泡雪の瞼が微かに震え、それからゆっくりと開いた。



朝陽を受けてきらめく瞳が、まっすぐに沙霧を見つめる。




そして泡雪は、柔らかな微笑みを浮かべた。





「………おはよう、沙霧」





その声までも、なぜか、雪とともに溶けてしまいそうに儚く聞こえた。




沙霧は悲痛な思いを呑み込み、必死に笑みを浮かべる。





「おはよう、泡雪。

よく眠れたかい?」




「うん………」





泡雪はこくりと頷き、沙霧の胸に頬を押し付けた。




その胸がどくどくと早鐘をうっているのに気づき、泡雪は顔を上げる。




そこには、つらそうに歪んだ沙霧の顔があった。





「…………沙霧? どうしたんだ、そんな顔をして………」





沙霧はゆっくりと瞬きをして、浅く息を吐き出してから、独り言のように言った。





「………わたしはなぜ、泡雪などという名を、君につけてしまったのか」